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「何かお悩みかな?少年」

ヨーロッパ、情熱の街イタリア。どこにでもある街中の小さなカフェテラスに腰掛け、丸テーブルの上に濃いめのエスプレッソを置き読書に集中していた獄寺は、かたんと音がすると共に目の前の空いているイスに座り、なおかつ見知らぬはずの自分へ声をかけてきた女性へと顔を上げた。女性の服装は単純な真っ黒のスーツ。彼女の歳を考えるともう少し流行の服や色だけがやたら派手な服を着ていてもおかしくないのに、面白いぐらい彼女の格好は黒一色で覆われていた。それも同じく黒ずくめの獄寺には、特に特筆すべき点ではなかったけれど。
それよりも獄寺は、苛立っていた。せっかくの休憩時間と勤しんでいた読書の邪魔をされたのだ。しかも台詞が「何かお悩みかな、少年」ときた。これで怒らない方が難しい話である。だから獄寺は不機嫌を隠そうともせず本を閉じ、いつも通りの目つきで目の前の女性を睨んだ。大概の女性ならばその睨みだけで僅かに怯むのだが、女性は全く動じる気配がなく、寧ろ楽しそうに笑みを浮かべている。

「なんだテメェは」
「へぇ、その本ダ・ヴィンチ?君みたいな人が読むなんて意外…いや、逆にその理屈っぽいところが合ってるのかな。成程、日本のマフィアは美術品にも興味があるのね、初耳だわ」

獄寺の言葉になど耳もくれず手元にある本を見て驚いたように声をあげる。今まではただ「いきなり話しかけてしかも自分の言うことを無視する最悪な奴」という印象しか女性に持てなかったが、最後の『日本のマフィア』の単語だけは無視することが出来なかった。ぴく、と反応した獄寺はもう一度彼女を睨む。

「…何者だ、お前」

しかしやはり彼女には何も影響を及ぼさないようで、勝手に獄寺の本を手に取るとぱらぱらとめくって「あー、懐かしい。こんな場面もあったわねー」と感慨に耽っている。…嫌な奴だ。ことごとく自分とは相性が合わない。何処かしら旧友である何事もごっこで済ませてしまう人物と似ているかもしれないと彼のことを思い浮かべた。だけどそれよりもっとタチが悪い気がする。本質的に、根本的にこいつの性癖は歪んでいる。

「そんな気難しい顔しなくてもいいでしょうハヤト・ゴクデラ。いや、ボンゴレファミリー10代目ボスの自称右腕?それともスモーキンボム?少年?何て呼べばいいのかしら」
「なっ…何で、俺の名前…」
「知らないのね、君は。ここらではマフィアの顔は殆どが割れてるってこと」

かちゃ。獄寺の眉間に小さな銃口が向けられた。驚いた獄寺に「動かないで」と制止の声がかかる。「小さくても威力あるわよ。それ以前にこの距離なら確実だわ」動こうに動けない獄寺はどうすることも出来ず、ただ彼女から目をそらさないように前を見つめる。彼女も獄寺を見つめた。ゆっくりと彼女の口がカウントを始める。5、4、3、2、1…

「ばーん!」
「…!…………は?」
「驚いた?ふふ、すごいでしょうこれ。本物そっくり。流石だわリボーン」

彼女のばーんというかけ声と同時に銃口から出てきたのは『マフィア ボンゴレファミリー』と書かれた旗だった。呆気に取られる獄寺を余所にお茶目な悪戯に笑う彼女は、確かにリボーンと獄寺の知ってる人物の名前を口にした。本当に何なんだ、こいつは。それでも話しているうちに一つ分かった。黒ずくめの服。あっさり口から出るジャパニーズマフィアという単語。自分の名前。そしてボンゴレファミリー、リボーン。それらが指し示す事実はひとつであり、獄寺程の博識ならばすぐにその事実に辿り着いた。

「お前…ボンゴレファミリーの奴か」
「ええ、そうよ。だからそんなに睨まなくていいじゃない。一応お仲間よ?」
「胡散臭い奴は信用ならねー」
「あら言うわね。そんなにさっきのボンゴレジョークが癇に障った?」

ボンゴレジョーク。聞き慣れない単語に獄寺は顔を顰めた。少しずつ彼女は頭がおかしいんじゃないかと考え始める。

「…何しに来たんだよ、俺のとこに」
「最近ボンゴレで活躍中の少年のことが気になったのがひとつ」

それから、と彼女は言葉を続ける。

「何かお悩みのような君のお役に立てたらとね。女性関係の悩み事なら相談に乗ってあげられるわよ?恋人が出来ないなんて青臭い悩みなら、私が叶えてあげる