*** 02

彼女みたいな女性は初めてだ。半ば強引に相席をされながらも、獄寺は冷静にそう判断していた。先ほどから彼女は目の前に居座り続けているが、する話と言えばファミリーの話か俺への質問だけで、自分のことについては何一つ語らない。たまに獄寺が彼女について聞けば一応答えるものの、最低限の返事しかしなかった。今まで周りに多かった自身のことばかり話し必死に取り入ろうとする女達を考えれば、獄寺にとって彼女は初めての女性であると思っていい。だから獄寺も席を立とうとも、「消えろ」と暴言を吐いたりもせず、なんとなく一緒にいた。

「少年は本が好きなの?」
「別に。こんなのただの暇潰しだろ」
「そうかしら。本って素敵だと思うわよ」
「お前は好きなのかよ」
「ある程度はね」

変に噛み合ない会話。どこかむず痒くなる感覚がする。それでも会話と続けてしまうのは、彼女がいつまでも笑うから。どんな下らない話でも彼女は笑って中身を膨らまし、楽しい話にしてしまう。彼女の能力、才能?素直に獄寺は感心する。

「お前、日本人だよな」
「ええそうよ」
「いつからこっちに?」
「小さな頃から。両親の転勤でね」

そう言って彼女はそれ以上語らない。両親の転勤の理由も小さな頃の思い出も語らない。無駄なことを話したがらない女性なんだろうか、と獄寺は考えていや違う、とすぐにその考えを自分で否定した。さっきから彼女の話はどちらかというと無駄ばかりで、肝心なことを話していない。…ということは、無駄なことしか話さない女性なんだろうか。それはあんまりだろ、と思いそれ以上考えないことにした。最良の選択だ。

「少年も昔から?」
「いや、俺は結構最近。10代目がこっちに来る時だからな」
「ボスが変わった時ね、成程。でも少年からはイタリアの匂いがするわね、なんとなく」
「昔住んでたからじゃねーのか?…ていうか、いつまで少年って呼ぶつもりだよ」

さっきから言おう言おうと思っていたものの完全に話すタイミングを失っていた。少年、というその呼び方はどこか自分を馬鹿にした感じで、獄寺はさっきから少し頭にきていた。え?と意外そうに彼女は驚く。どうやら少年と呼ぶことが普通だったらしい。溜息をつくばかりである。

「だって少年、歳いくつ?」
「今年で25」
「えっ!?」

目を丸くして獄寺を見、下を見、また獄寺を見、を彼女は何回か繰り返す。獄寺が何だよ、とぶっきらぼうに聞くとやっと彼女もその動作を止めた。ゆっくりと口を開く。「…嘘はいけないよ、少年」「嘘じゃねえ!」散々間が空いて次の台詞がそれかよ、と言いたくなる衝動。獄寺はそれを必死に我慢し、ただ腕を組む。

「…信じられない、同じ歳なんて」
「何だ、お前もなのかよ。別に驚くことじゃないだろ」
「驚くことよ。…絶対少年は私より年下だと思ってたわ」

同じ歳ということを全く想像もしていなかったらしく、深刻な顔を続ける。獄寺はそんな彼女を見た後、急に豪快に笑い出した。今まで静かだった彼が笑ったこと、そして今まで仏頂面だった彼が笑ったこと、その両方に驚いて彼女は目を見開く。「どうしたの?」

「いや…お前、ほんと変な奴だなと思って…」
「失礼ね。あなたも充分変よ」
「変か?」
「ええ。普通こんな怪しい女と一緒にお茶なんかしないわ。名前も名乗ってないのに」
「自分で言うなよ」
「自分で言わなきゃ誰が言うのよ」
「俺が言う」

やっとのことで笑いを止め、獄寺は口を開く。

「何で俺はお前みたいな怪しい女とお茶してるんだろうな。名前も知らないのに」
「…そうね、そういえば名乗ってなかったわ」

彼女はさっき頼んだカフェラテを口に含み、カップを机の上に置く。それは確かに初めての、が自分から自身のことを語った瞬間だった。

「私は。これからよろしくね、隼人」

獄寺に向かって手を差し出したは、笑っていた。獄寺と同じように。