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*** 04 ルーナ・インヴィディアと獄寺は、一度仕事で同じになったことがある。それはあるマフィアの殲滅で、頭脳明晰で武力派である獄寺と、割と頭が働き戦えるという理由からルーナが選ばれた。つまりは頭も戦闘も必要な仕事だった。ただそれっきりで、獄寺はルーナと連絡を取っていない。元々女になどそこまで夢中にならない獄寺だ。来る者選び、去る者追わず。ただし今は来る者拒み、去る者追わずという誠実な男になってしまった。それは勿論が理由だとしか言い様が無い。実際その通りだ。それでよかった。獄寺は誠実な人間になり、一人の女を愛すことが出来た。それでよかったのに、それで駄目なのは、ルーナが獄寺を愛してしまったから。仕事で一緒になり、それ以来ルーナは獄寺に惹かれていた。遠くから見るだけでいいと、そんなことを思っていた。それは彼女が控えめだからとそういうわけではなく、今自分が獄寺に想いを打ち明けても他の女と同じように、抱かれ、飽きたら捨てられると分かっていたからだ。だから言わなかった。遠くから見ていた。 「が、襲われた」 ある仕事が入っていない日に、獄寺は山本に電話で呼び出された。『話がある』そう言っていた山本はいつになく深刻な様子で、少しおかしいと獄寺も薄々感じてはいた。と出会ったカフェで待ち合わせ。お互いエスプレッソを注文しそれが運ばれてくると、山本は漸く口を開いた。その言葉は獄寺を惑わし、上手く言葉を発することさえ出来なくする。 「お、っそわれた…だと」 先日、山本はちょうど仕事で人通りの少ない場所へ行っていた。もう仕事も終わりで帰ろうとする頃、突如聞こえた銃声。急いでその銃声が聞こえた場所に行けば、数人の男達に取り押さえられ襲われている。山本はすぐにその男達を捕らえ、を救った。 「アイツはある女と代わってやってその仕事をしていたらしい。だけど仕事の途中でいきなり男達に両手両足を固定され口も押さえられ襲われたっては話してたよ。銃は、思いっきり抵抗して片手だけ外れた時に急いで空に向かって打ったんだと。よく頭働いたよ。それがなければ、俺は気付けなかった。あんなに人が通らない場所だ、仕事でもなければ俺も行かないだろうしな」 ついその言葉で安心しかける獄寺だが、違うと考え直す。そんなことを言っているんじゃない、何でが襲われかけたか、それを考えないと。…待てよ、確かがその仕事についたのはある女と代わってやって、と山本は言っていた。獄寺の頭が回転を始める。 「…その女が、しかけたのか?」 散々脅したという山本に嘘はないだろう。こいつも、自分と同じようにを愛している男だ。愛する者が襲われたりなんかすれば、腹が立つのも当たり前。現に山本は先程から強張った表情で、いつもみたいな笑みなんて決して浮かべない。怒っているのだ。腹の底から、苛立っているのだ。 「ルーナだよ。ルーナ・インヴィディア。嫉妬の名を持つ女」 ルーナ。その名前には聞き覚えがあった。珍しく獄寺が女の名前を覚えていたのは、ルーナが印象的だったからではなく、ただその仕事が割と大変なものだったから。実際ルーナの顔など獄寺は思い出せないし、思い出そうとしても不可能だ。 「ルーナはと昔からの知り合いで、ボンゴレに入った時ぐらいからの旧友なんだ」 意味が分からない。獄寺は理解に苦しむ。何故旧友であるを襲わせたりする?何故がそこまで恨まれる?アイツほど、人に好かれる奴なんていない。いつだって自分のことなんておざなりで、人のことばかり考えてる。そんな奴が、何で。 「ルーナはお前に惚れている」 山本は告げた。躊躇せず、はっきりと。 「ルーナはお前に惚れている、それこそ仕事を一緒にした時かららしい。お前の女癖を知っていたから遠くから見るだけでいいとも思っていた。だけどそこにが現れた。旧友である。しかも今度はお前も完璧に惚れ込んでいる。嫉妬だよ、単純な女の。まあ女の嫉妬ほどややこしいものはないけどな」 それはつまり、が襲われたのは、自分の所為だということだろうか。自分の所為で、大切なを危ない目に遭わせた? 「俺の、所為なのか?」 がんっと大きな音がして、周りの客が一斉にこちらを向く。獄寺がテーブルを殴ったのだ。顔を伏せてはいるけれど、拳を握る手は震えている。「獄寺」制止のつもりで声をかけても獄寺は一向に動かない。ずっと止まったまま、ただ震えている。怒りかもしれない。悲しみかもしれない。獄寺は許せなかった、何もかもが。 「獄寺。お前は、と別れた方がいい」 別れる?誰が?俺とが?何故?頭が上手く働かない。ただただ息苦しい。上手く息が吸えないんだ。どうすればいい?俺はどうしたらいい? 「これ以上付き合っていたらはもっと危ない目に遭う」 あの山本が獄寺に頭を下ろし、必死に嘆願する。獄寺はただそれをぼおっと見ている。獄寺の視界が霞んだ。雨だ。激しい雨。それなのに、周りの客は笑ってコーヒーを飲み談笑を続け、中に避難する気配がない。何でだよ。こんなに雨が降ってるのに。前が見えなくなるほど、雨が降ってるのに。早く、逃げないと。 |