「明日、デートしよう」

へ?俺が間の抜けた声をあげてもは気にせず「明日デートしよう。それじゃあ」と言うだけ言って去っていってしまった。デートって…デート?あのデート?付き合ってる二人が一緒にでかけるデートのことだろうか。だけどデートに行く、ってだけで待ち合わせ場所も時間も何も言ってこなかったし、俺はどうすればいいんだろう。考え出したところで教室の隅の獄寺の席らへんで獄寺がぎゃーぎゃー喚くのが聞こえた。ふと目をやるとそこにもいる。暫くして不機嫌絶好調の獄寺がこっちに歩いてきた。「おい」「ん、何だ?」親指で既にが廊下に消えてしまった方向を指差すと、渋々と言った感じで口を開く。

「待ち合わせ、並盛公園に11時だってよ」
「…へ?」
「だから、明日お前らデートするんだろ!?」

意味分かんねーよアイツ。獄寺が廊下を見ながら話し出す。

「いきなり俺の席のとこ来たと思ったら、『デートの待ち合わせ場所と時間言い忘れた。獄寺言ってきて』だぜ?何で自分で言わないんだよって言ったらいいからとりあえず言ってきてとか言うし…どうしてあんなぶっきらぼうというか愛想のない奴と付き合ってんのか、俺にはお前が理解できねーよ」

ぶっきらぼう?愛想の無い奴?つい俺は笑いそうになってしまった。獄寺はを誤解している。は本当は誰よりも優しくて、可愛い奴だ。だけど意地っ張りだから、素直に気持ちを伝えることが出来ない。待ち合わせ場所と時間を言い忘れ、しかもその伝言を他の奴に頼むなんて…すごく可愛いじゃないか。意地っ張りな彼女の一面に俺はにやけてしまいそうだ。ああもう、なんて可愛いんだろう。。おまえはすごいよ。俺の心をがっちり掴んで、離さない。

「おい、何微妙に嬉しそうな顔してんだよ。怪しいぞ」
「あー………何でアイツあんな可愛いんだろうな」
「はぁ!?お前、正気か!?あんな淡々とした奴のどこが可愛いんだよ!」
「駄目だ獄寺俺にやける…」
「お前はどこぞのオヤジか!!」

だって、分からないかな獄寺。告白したのは俺、一緒帰る時誘うのもいつも俺。俺のことを本当に好きかも分からなかった、そんな彼女が自分からデートに誘ってきてくれたんだよ。「明日、デートしよう」そんなことを言ってくれたんだよ。ああ、分かったよ。デートをしよう。俺は今幸せだから、その幸せをお前にも分けてやりたい。素直じゃないお前が好きだ。待ち合わせ場所と時間も言い忘れるような、ちょっと抜けてるお前が好きだ。

「なあ獄寺、俺アイツが好きで好きでたまんねーんだけど」
「俺に言うな!!!」



***

次の日、並盛公園。待ち合わせは11時のはずなのに、何故か俺は10時に来ていた。

「…早すぎた、か?」

だけどあれ以上家にいても俺は待ちきれずにうろうろ歩いて親父に怒られそうだったし、これでいいはず。…でも流石に1時間前はないよな。少なくともあと30分以上は待たなくちゃいけないだろうが、これからの幸せを考えればそれぐらいどうってことない。近くにあったベンチに座ってぼーっと公園を眺めている時、がさがさ、と後ろの茂みから音がする。すっと目を向けてみると、何故かそこにはがいた。

「…………?」
「……………」

俺が声をかけた瞬間ばっと大きな木の幹に隠れて姿が見えなくなってしまう。俺はすぐに立ち上がってその木の裏を横から覗いた。心なしか顔を赤くして、慌てているようにも見える。「どうした?」

「あ、あの、別に、待ちきれずに早く来たわけじゃないから」
「え?」
「早起きしちゃって、それで、暇だから来ただけで、別に、楽しみにしてたとかじゃ、なく、て…」

あまりにが可愛くて、彼女が喋れば喋るほどその可愛さがどんどん増していく気がして、ついにやけてしまっていたんだろう。「そんな、笑わないで、欲しいんだけど」赤みがかかっていた顔を真っ赤にさせたは耐えきれないという風に俺に言う。仕方ないじゃないか。これはが悪いんだ。ちょっとした一言で俺を喜ばせてしまう、が悪い。我慢出来なくなって俺はとうとう大声で笑い出してしまう。初めは呆気にとられていたも、少しすると小さく笑い出した。まだ朝早く人も少ない公園に、俺との笑い声が響く。二人きり、みたいだなあ。この世界に生きているのが、自分とだけみたいな気がしてくる。嬉しさとか、幸せとか、そんな簡単な言葉では言い表せない、何か。その何かが俺の心を支配している。

「はじめ、何処行きたい?
「何処でもいい」
「…………」
「あっ、ちが、そうじゃなくて、」

何処でも、と言われて何処にしようかと考え出した俺がの目にどう映ったのか分からないけれど、急に否定するように声をあげた。俺が何かを言う前に、が1人で弁解を始める。

「何処でもいいって、悪い意味じゃなくて、良い意味で何処でもいいっていうか…なんか、何て言えばいいか分からないんだけど、山本となら、何処でもいいって思えるんだよ。何処でも、山本となら、楽しそうだなあって。だから何処に行くか考えるのが面倒くさいとか、そんなんじゃないから、ね?」

じーっとを凝視して、俺は力が急に抜けてしまいその場にしゃがみこんだ。「や、山本!?」驚く声さえも、愛しく聞こえる。何だ、何なんだ、この可愛い生き物。何でこんなに可愛いんだ?いちいち可愛いと思ってしまう自分がおかしいのか?獄寺にもそう言われた、けどこれ、可愛いと思わない方がおかしいんじゃないだろうか。スカートとかはいてどこかしらお洒落してるし、いつも通り可愛いし…っていうか、ああ、『ね?』と一緒に首を傾げる動作はまずい、よなあ。うんまずい。、それ、俺の前だけでしてくれよ。俺だから我慢出来るんであって、忍耐力のない男の前でそれやったら、絶対襲われるからな。それに『貴方となら何処でもいい』なんて言葉も、俺みたいな奴じゃなかったらお前襲われてるぞ。ただいま無理矢理押し倒されてボタン引きちぎられてあんあん言わされてる最中だぞ真面目に。だから、もう、勘弁してくれ。いや、その言葉自体はすごく嬉しいんだけど、俺も人間だから理性の限界はあるというか…要は、我慢出来なくなっても知らないからな、ってことなんだけど。

「…じゃあ、とりあえず公園一周とか行くか?」
「うん。あっ、えっと、手を繋ごう」
「……………」
「だ、だめですか」

。お前はほんと、俺の心の中で激しい葛藤が起こっていることを知らないんだな。を襲っちまえ、って気持ちとそんなことしたら駄目だろ、って気持ちが対立してすごいことになってるんだよ、俺の心。今どちらかというとお前の所為で勝っているを襲っちまえ、って気持ちを更にお前は強くしたいのか?困った顔でを見たらすっごいしゅんとした表情で、それを見て身体がむず痒くなる自分は、やっぱり獄寺の言う通りオヤジなのかもしれない、と思った。そんな悲しそうな顔されたら、俺は、自分の理性頑張って食い止めてでも、手を繋ぐしかないじゃないか。

「だめじゃ、ねーよ」
「!そ、そっか」

恐る恐る手を伸ばして、ぎゅっとの手を握る。小さくて、白くて、柔らかい。女子の手ってこんなに可愛いものなのか?それともこの手がのものだから?…もう、何でもよくなってきた。とにかく、自分の我慢の限界が来ないように、必死に抑えよう。でも、繋いだ手からの温かさとか伝わってきて、俺が立ち上がった途端の方からぎゅっと強く握り返してきたりなんかするもんだから、どうしたらいいのか分からない。ちょ、ま、ほんと待てよ。これ以上俺を弄ぶ気か?。恐ろしい女。怖い女。…可愛い女。

「俺、ほんと、お前が好きだよ。
「…え、あ、……うん」

今日1日俺はこんな幸せな思いを出来るのかと思うと、神様に感謝せずにはいられない。神様とか、そういうのを俺は信じてるわけじゃないけれど、ここまで物事が上手く行き過ぎるならつい信じてしまう。今日は、神に、愛されてる。ああ、なら願おう。ちょっと贅沢だけど、これからもずっと、とこうやって一緒にいられるように。今日は神が味方なんだから、今日願えば、その願いは叶うってことだよな。頼むよ、神様。野球の神様でも恋の神様でも全知全能の神様でも何でもいいから、俺とをいつまでも隣にいさせて欲しい。この手をいつまでも握るためなら、犠牲も厭わない。

「…私、も…好き、だよ」

その前に、俺の理性が保たないかもしれないけれど。







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