長い髪は、邪魔だ。武の素肌を感じるのを、妨げる。す、と足を伸ばせば武の身体に触れることが出来るというのに、同時に僅かに感じる自分の髪の感触に眉を顰める。ああもう、邪魔だ。私は、肌をそのまま感じていたいのに。だけど武はこの長い髪を好きだと言ってくれるから、私はいつまでも伸び続ける髪を切ることが出来ないの。こうやって、服もろくに着ずに武の身体に自分の足を絡ませるなんてことも、その時の気まぐれでやったことだったけど、武がそんなも好きだなんて言ってくれたから、よくやるようになってしまった。教育、されている。いや、むしろ、暗示?洗脳、かもしれない。恐ろしい。

武にキスを求めるつもりで唇をそっと指でなぞると、その口で武は私の首筋に吸い付いた。違う、そうじゃない。確かにキスをして欲しい理由はなんとなく苦しいからだけど、喉元に喰らい付いて欲しいわけじゃない。息を吸わせるために喉を、なんて考え方が安易すぎやしないだろうか。待っていてもそのままどんどん唇から離れて下に下がってきそうだったので、武の胸板を押し返した。スポーツをしてるからか、がっしりしている武の胸元は、ものすごく綺麗。ごつごつ、している。キスをしたい、のに武の頭が遠いから唇が届かない。悔しい。

「たけし。キス、して」

そ、とまた武の唇をなぞる。この口で、今直ぐ、私にキスをして欲しい。うまく息が吸えないの。分かる?それなのに武は笑うばかりで、ちっともキスしてくれようとしない。意地悪。何でキス、してくれないの。そう聞いても武は笑いながらこっちを見て、胸元をきつく吸い上げる。声が漏れた。

「だって、キスだけで満足されちゃ、困るし」

わがまま。このわがまま王子め。今はキスが欲しいのに。息が吸えなくなるぐらい長くて深いキスが欲しいのに。武は私の身体を弄ぶばかり、決してキスしてくれようとはしない。そのくせキスする場所は首とか、胸元とか、なんとなく惜しいところばかりなのでむずむずする。もどかしい。「、感じてる?」感じてないわ。「けどもっと欲しいって表情してる」キスして欲しいって言ってるだけ。「素直じゃないな」どっちが。

「俺だって、とキスしたいんだけどさ。でもキスしたら1人で服着そうだし、やっぱ迷う」
「そんなこと言ってたら、私、息吸えなくて死んじゃうかも」
「逆じゃねーかなあ。俺、今すっごい興奮してるから、キスしたら止まらないだろうし」
「それでも、キスして欲しいの。今すごくキスが欲しい。ねえ武、キスしてよ」
「んー、でもなあ…」

いまいち反応が鈍い。話しながらも少しずつ私の身体に食い付いてくる武は、まるで魚を狙う釣り竿の先っぽの針みたい。きっと私は魚ね。爽やかな空気を吸いたいからその針に近付くのに、触れるばかりで全然捕らえてくれない。こっちは警戒も何もしてないのに、あっちは触れるだけしかしてくれないなんて、ひどい。綺麗な空気を頂戴よ。息を吸うのも忘れるぐらいの、キスを頂戴。いつまでたっても煮え切れない武にごうを切らして、「いつまで待たせる気、」と不満を隠すことなく声に出した。苦笑いした武は、そっと私の足の付け根に触れた。びくっと身体が震える。

「大丈夫。嫌でも息吸わざるをえない状況にしてやるから」

それは、ああ、私を喰うということ?綺麗な空気を吸わさせずに、水中にいる私を、そのまま食べるなんて。礼儀がなってない。反則よ。だけど確かに、運動が激しくなれば息は吸わないといけない。なら武のは正論?いや、ただの屁理屈。理屈もなにもないわ、あるのはただの武の欲望。性欲。さっきもやったのに、まだ足りないのね。小さな子供。我慢の出来ない小さな子。私はその子に付き合ってあげるわ?だって本当は、稚児の遊戯も嫌いじゃないから。







水中魚

(いつになったら口付けをくれる?喰われてしまったら、キスも何もあったもんじゃないわ)