理由のないこと、こと、こと。







横からの視線を、痛い程感じる。…必死に気付かないフリをして、私は黒板に書かれた文字をノートに写す。暫くしてもその気配は消えなくて…駄目だ集中出来ない。…そうだ、ひょっとしたら私の思い違いかもしれないし、ちらっと見て、確認しよう。もし勘違いだったら全然問題はないし、もしそうだったとしたら…どうしようか。いやそんな仮定の話なんてしていても意味はない!よし、ちらっと見てみよう!そう心の内で1人決心して右にいる彼をちらっと見…

「ん?どうしたんですか、
「(ばっちり目合っちゃったよ…!!)」

確認するまでもなかった。右を見、「あ、彼だ」とその姿を目の端に捉えた瞬間かけられる声。しっかりと彼を目で捉えるとにっこり笑ってこっちを見ている六道くんがいた。どことなく嬉しそうに見えるのが、何ていうか…空しくなる。ぱあっと顔を輝かせているのはまだしも、後ろに花が咲いているように見えるのはどういうことなんだ、これは。…待てよ?見られている気配がして見てみたら事実、こっちを見てたということは…まさか、授業が始まってからおよそ30分間、ずっとこっちを見てたってこと?…それは、何とも、見られ、すぎでは、ないだろうか。見られっぱなしということは、さっき辞書と教科書を落としてしまったとことか、寝そうになってしまいペンが何時の間にやらノートについていたとことか、消しゴムかけを失敗してノートをぐしゃってしてしまったこととか、のり付けの時間違えて机にべっとり付けてしまったとことか、全部、見られた?…あんまりだ。

「えーと、あの、六道くん。誤解だったらいいんだけど、さっきからこっち、見て、る?」
「ええ、よく分かりましたね。さっきからが辞書と教科書を落としたとことか、寝そうになってペンが気付けばノートについてたとことか、消しゴムかけを失敗してノートをぐしゃってしたとことか、のり付けを間違えて机にべっとり付けたとことか全部見てますよ」
「………」

そこまで詳しく述べられるとは思ってなかった。本当に言葉通り全部見られていて、目の前の人の頭は大丈夫だろうかと心配してしまうぐらいだった。それ、自分は変態だというカミングアウトだと思うぞ。

「ああ、そんな顔しなくても大丈夫。可愛かったですから」
「…………」

…こういう時、上手く言葉が思い付かない自分がもどかしい。私がどんな顔をしていたかは知らないけれど…決して、「さっきの心配を六道くんに見られていたの!?やだ、はずかしいっ!」みたいな顔ではないとだけ言っておこう。可愛い。そんな、言われて嬉しい台詞トップ5には入りそうな言葉を実際にいわれてもときめくことが出来ないのは、言った本人の所為だ、絶対。これが例えば隣のクラスでこっそりかっこいいと思っている柿本くん(皆は分かっていないが、なかなかのイケメンだ)とか実はこっそりかわいいと思っている城島くん(ぴょん!という語尾が物凄く可愛い)とかならどきっとするのかもしれないけれど、正直、六道くんに言われたって嬉しくない。…寧ろ嫌だ。そりゃあ初めは転入生、ってことで雰囲気がミステリアスだし顔もかっこいいし、しかも漫画でよくある隣の席!ってことで期待してたけど…夢と現実は、やっぱり違うよね。暫く一緒に生活していくうちにすぐ分かってしまった。…六道くんは、変態だ。しかも、筋金入りの。

。よかったら消しゴムを貸してもらえませんか?今日、生憎忘れてしまいまして」
「…もしかして、消しゴム貸してっていうためにさっきから見てたの?」
「はい。元々用事はそれだけだったのですが、ふとの横顔を見るとあまりに勉強に熱中しているが可愛かったので、つい…」

ついって…。ああもう、だから六道くんは変態だって言われて思われるんだよ!(私に!)これがどの女の子にも言っているとかなら完璧に変態、しかも女たらしということになるのに、言われているのは私だけだから、どう受け取ったらいいのか分からない。はたして本気か、冗談か。本気だと思えればそれが一番いいのにそう思えないのは、六道くんの瞳が、時に、すっと細くなって別人のような表情になってしまうから。そういうのを見ていると「今の六道くんは本物の六道くんじゃないのではないだろうか」と気付けば考えてしまうので、どうしようもない。

「今日暇ですか?」
「…一応」
「だったら!僕と、あと隣のクラスの柿本くんと城島くんは分かりますか?僕と一緒に転入して来た。その子達、僕の知り合いなんで、その4人で一緒に出かけませんか」
「え!(柿本くんに城島くん!?ほんとに!?)(いやいや乗せられるな落ち着け私!)」
「どうでしょうか」
「い、行きたいのはやまやまだけどやっぱ私今日は用事あるっていうか…」

「おい。さっきから話が多いぞ。そんな余裕ならこの問題解け」

急に、凛とした先生の声が響く。って…わ、私か!なんと、六道くんに一方的に話しかけられていたというのに私が注意されてしまった…!六道くんのばか!しかも黒板の先生が指し示す問題を見て私は絶句。見たこともないような数式がずらりと…頭がいたい。視線が気になって集中出来なかった間に、授業はこんなにも進んでしまったのか。うーん、進歩。ってそんなこと言ってる場合じゃなかった!当てられたんだし、答えなくちゃいけない。だけどいざ席を立ち上がって答えようとしても、答えが分からないんじゃどうしようもない。「分かりません」と言おう。そう決心して「わ」と口を開いたところで隣の六道くんがちょんちょんと私のノートを指差した。そこに文字が書いてある。『答え 3√2+5πr』

「さ、3√2+5πr?」
「正解。問題分かってるからって授業中の私語は慎めよ」

あー、よかった。一安心して席に座り込むと溜息を吐く。厳しいを有名な先生がそこまで怒らなかったんだ、きっと、あの問題が相当の難題だったに違いない。本当に助かった、ありがとう…と心の中でお礼を述べたところでそう言えばあれは誰が書いたんだと疑問にぶち当たる。六道くんが指差してくれたけど…まさか、ねえ。

「あのさ、六道くん。さっきの答え出してくれたのって…」
「僕ですよ」
「え、ほんとに!?」
「ええ。僕、数学は得意なんです」

うん確かに六道くんの顔は理系だよなあと勝手なことを窓の外を眺めながら考える。どうしようもないほど綺麗な空に、輝く太陽。隣で聞こえる、呟き。「さっきの消しゴムのお礼は勿論ですけど…だったから、僕は教えたんですよ」さあどうしようか。変態だと分かっているのにどきどきしてしまったよ。当たり前のように私に向かって笑う六道くんが、この上なく自然な笑顔だったから。






太陽輝く理由