馬鹿なほど人間らしい自分を知った。





彼女と出逢って、僕という人間の単純さを改めて知った。彼女のため、彼女の笑顔のためなら何でも出来ると思ってしまう自分は、なんだかすごく、人間みたいで。今まで気付かなかった。自分に、こんなにも人間らしいところがあったなんて。馬鹿みたいだけど、何だか不思議と、そんな自分は嫌いじゃないと思った。…思って、しまっていたんだ。




羽を求めた悪魔の子 act,3




「その…本当に大丈夫?さん」
「大丈夫だよ、全然平気。…し、失礼なんだけどあの、そのこと言われると、ほんと思い出して笑っちゃうからあんま言わないで欲しいなあっていうか…心配してくれてるのにほんとごめんね!」

笑っちゃうから。そう言うさんの表情は、既に笑ってしまっている。ていうか笑いを堪えているようにも見える。(実際堪えられてないけどね)…そんなに面白かったかなあ、僕。傷つけたことを一人で焦って、一人でパニックになって…改めて考えてみるとかなり間抜けじゃないか。いや、改めて考えなくても間抜けだ。なんかもう顔から火が出そうっていうのはこういうことを言うのかなあ、と思うぐらいの恥ずかしさだった。でも、そんな馬鹿な行動も、さんの笑顔を見てたら全部どうでもよくなっちゃうんだから…変なの。さんと出逢って、今まで発見したことのない自分をいっぱい見つけた。どれも今までの僕からしたら考えられないようなものなんだけど、でも、そんな自分は嫌いじゃないと思えるのも…やっぱり変だった。こんな自分、うざったいと思うのが僕にとって当たり前だったのに。

「あ、もうこんな時間。そろそろ教室に戻らないと」

通りがかりの教室の中にある時計を見たのか、さんが呟いた。僕も時計を見て、ああ、もうこんな時間なのかと知る。休み時間もあと少しで終わり、次の授業が始まってしまう。僕とは違ってさんは真面目だから、まさか授業をさぼったりなんてことは絶対にありえないだろう。(時間が止まらないかな、とふと、思った)ちょっと名残惜しい。…違うな。本当は、すごくすごく名残惜しい。行って、欲しくない。けどそんなこと考えてしまう自分が女の子みたいで恥ずかしくて、必死にそんなこと考えないフリをする。自分との、戦いだ。一方の僕は「さんと、いたいんだよね」って囁いてきて、もう一方の僕は必死に「そんなことはない。僕は一人でいい」と言い張っている。それを僕は傍観しながら横にいるさんを見て、こっちを向いて首を傾げるさんと目が合った途端、やっぱり一緒にいたいなあなんて思ってしまった。前者の僕の、勝ちだ。

「雲雀くんは、やっぱり委員会?」
「あ…うん」

本当は、委員会の仕事なんて、そんなにないんだけどね。そう言えばいいくせに、さんには言えない僕は、卑怯者。(また新しい自分を発見した)格好つけるなんて馬鹿がすることだと思ってたのに…今の僕がそのまま馬鹿だ。これからは馬鹿を邪見にするのは止めよう。「馬鹿は死ね」なんて言葉も言わないでおこう。それからどんな奴にだって卑怯者って言うのも止めておこう。…何だかかなり制限されてきたな。「雲雀、くん。あのね、」「え?」さっきの僕の返事から少しして、さんがぽつりと呟く。小さな声だったけど、さんの声を聞き逃すような僕じゃない。しっかり聞き返して、次の言葉を待つ。

「実はね、この前、席替えしたんだ」
「へえ、そうなんだ。(席替えって…ああ、あれか)」
「それで私と雲雀くん、隣の席になったんだよ」
「へえ、そうなんだ。…え?」
「今、私と雲雀くん、隣の席なの。一番後ろで」
「隣…?」
「うん」

さんと、隣。…なんだかその言葉自体素晴らしい言葉な気がしてきた。うーん、さんマジックだ。そこでさんの話が終わったならば、きっと僕は「さんの隣、いいなあ。僕も、真面目に授業を受けていたらなあ」と思って終わったかもしれない。(なんか今の自分ならばさんのために授業受けに行きそうな気もするけど)でもそれを確定付けたのは、次に聞こえた、さんの一言だ。

「だからね、もしよかったらなんだけど…委員会の仕事片付いたら、授業受けに来ない?」

え?驚く僕にトドメ。「なんか…隣の人、っていうか雲雀くんの席が空いてると、妙に寂しくて」「もしよかったら、でいいんだけど」「じゃあね、私もう行くから!委員会のお仕事頑張って!」気付けば彼女は去っていて、残ったのは呆然と突っ立っている僕だけだった。…何て言った?さん。僕がいなくて…じゃなかったな。僕が横にいないと…じゃない、これはただの僕の願望だ。(ちょっと自分が馬鹿らしくなってきた)えーと…そうだ、僕の席が空いていると、寂しい、だ。…え?

「…僕の席が空いてると、寂しい……?」

もう一度口に出しても現実は変わるはずなくて、僕は一人で立ったまま。さんはもう、教室についているだろうか。次は…確か、5限目、だったかな。…よし。久しぶりに、授業を受けに行こう。さっきつい「委員会がある」なんて言っちゃったから、5限目が終わって、次の時間に間に合うように行こう。1時間だけだけど、でも、隣でさんが見れる。…さん、教室に来た僕を見て、どんな顔をするだろうか。驚くだろうか。それとも、いつものように、優しく笑うのかな。…どっちでもいいや。どっちにしたって、僕が嬉しくなることには、変わりない。