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なんだか最近ぼーっとすることが多い気がする。その時考えてることの大半が彼女についてだということは…まあ、言わなくても分かるだろうけれど、そうだった。自分が今持っている感情に名前の付けようはない。何というか…純粋に、惹かれてた。真っ直ぐ笑う彼女に。僕と正反対の、彼女に。
暇だなあ、窓から外を眺めながらそう思った。外では女子がソフトボールをしていて、つい自分のクラスかと確認してしまう自分が嫌だった。(彼女がいるかどうかの、確認だから)この前は偶然書類を頼まれただけで…次があるなんて、誰も言ってないのに、ね。この前からそうだけど…情けないなあ、僕。ずーっとさんのことばかり考えてる。「優しいんですね、雲雀くんて」彼女が紡いだ言葉の中でもそれは格別で、僕はそれを思い出すだけで嬉しくなってしまう。コンコン。応接室の扉がノックされた。「あのー…」妙に聞き覚えのある声が一人だけの応接室に響く。…聞き覚えのある、じゃなくて。これは…彼女の声だ…!すぐに立ち上がって応接室の扉を開け…ガチャ…ゴンッドンッ…バサバサッ。このパターンも既にお決まり、僕は彼女に苦笑する。 「…ごめん。さんの声が聞こえたからすぐ開けようとして…また、だ」 申し訳なくて言葉を濁しても、彼女は笑って書類を拾う。…優しい、んだな。さん。「ごめん、ね」もう一度謝って僕も書類を拾う。それもやっぱり風紀委員宛で、正直驚いた。二回も同じ人に頼むなんて。さんに聞くと、さんは笑って答えた。「この前大丈夫だったか?って聞かれてすごく優しかったです。って言ったら面食らった顔してまた頼まれちゃいました」本当におかしそうに彼女は笑う。…ああ、だめだ。本当に同じ人間に見えないぐらい可愛い。ただひとつ、気になったことを口にする。 「…敬語、は、いいよ」 さんのためにとこの前から思っていたことを言う。彼女は一瞬目をぱちくりさせると、次の瞬間すぐ笑顔になって「…ありがとう」と、また、笑った。(それ以上笑わないで欲しい、君は可愛すぎる)何だかだんだん自分は変態なんじゃないかと思ってきた。さんが書類を拾う様子、それをつい目で追ってしまう。右手で書類を拾って、左手は頭を抑えて…ん?抑え、て?記憶の糸を辿りそういえばドアを開けた時ゴンッという音もしていたことに気付く。 「さん。もしかして、頭…」 ぐいっと立ち上がりながらさんの腕を引っ張る。今直ぐ保健室に行かないといけない。早足で歩き出す。「あ、あの…雲雀くん、書類…」「そんなの後で拾えばいいから」「え、あ…でも…」戸惑う彼女は気にせずにとにかく歩く、歩く。…何てことだ、自分としたことが。あんなに可愛い可愛い言いながら自分で怪我をさせてしまうなんて…僕は馬鹿だ。保健室が視界に入り、更に足早に進む。がら、と少し乱暴に、保健室の扉を開けた。中にいる先生は僕を見て、また後ろにいるさんを見て更に驚いているようだった。 「…ねえ、いつまで突っ立ってるの。さん頭を打ったんだ、氷ぐらい出してよ」 保健室の先生は僕が声をかけると慌てて準備を始める。さんは横にあるソファに座らせて…これで大丈夫だ。先生がさんに氷を渡して、気を遣ってかはたまた怯えてかそそくさと保健室を出て行く。はあ。と安堵の溜息が出て来た。僕もさんの横に座る。…大丈夫、だろうか。横を向き尋ねようとして…絶句。くすくすと、笑い声を抑えて彼女は笑っている。 「…、さん?」 ご、ごめんね。笑っちゃって。謝りながらもさんはくすくすと笑い続ける。これは、ただ僕が何も知らずに一人焦っていたからこそ起こったことだ。情けない、というか…下らないことなのに。(さんが、笑ってくれた)それだけでもういいと思ってしまうのは、僕が愚かなだけ?でも僕は、彼女と出逢ったことに後悔なんてしていない…寧ろ、感謝している。幸せだと、思う。…なら、それでいいと思った。人によって幸せの形は違うからこそ、周りには理解されないかもしれないけど、それでもいい。 「…あ、あはは……っ」 (君が笑ってくれるなら、それで。) |