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彼女に出逢ってから数日が経った。たまたま街で見かけただけ、再び逢える確率はほとんど無くて、期待なんて始めからしていない。本当にもう彼女とは逢えないんだろうか。歳は…ちょうど同じぐらいだった気がするし、夜遅くあの辺にいたのなら住んでいる場所も自然と決まる。もしかして偶然同じ学校…な、わけがないか。同じ学校だったらこの僕なら分かるはずだ、確かに彼女は見たことのない顔だった。やっぱり逢えない… ん?…何で、一度逢っただけの奴のことを気にしないといけないんだ。頭から無理矢理この前のことを振払い、僕は大きく息をつく。(心のどこかに穴が空いている感覚は、きっと気のせいだ)
「(…何だろう、本当にむかつく)」 ふ、とこの前の彼女のことを思い出したら苛々してきた。がん、とそこにある椅子を蹴ってみるも苛々はおさまらない。(だってこれはただの八つ当たりだろ?)妙にむしゃくしゃした。とにかく誰かを殴りたいと思った。…このまま応接室にいてもそのうち委員の奴に当たりかねないな。(実際今応接室にいるのは僕一人、他は全て追い出した)今の自分の怒りメーターはかなり高いところまできているし。屋上でも行って頭を冷やそう。腰を上げて応接室の扉を開ける。ガチャ…ドンッ…バサバサッ。扉を開ける音に共鳴し更に更に音が聞こえてきた。少し空いた扉から見てみると下にたくさん書類が落ちているのが見える。…扉がぶつかって書類が落ちたのか。まったく、このややこしい時に…「あ、す、すみませんごめんなさいほんとすみません…っ!!」慌てて書類を拾う少女の姿、そして声、台詞に既視感を覚える。……違う、既視感なんかじゃない。これは…こいつは…。 「ほ、ほんとすみませんでした…「君、は、この前の…」 拾いながら謝る彼女に声をかける。僕の言葉に聞き返し、彼女は顔をゆっくりと上げた。(ああ、また君と逢えた)間違いなかった、この前の彼女だった。今でも鮮明に覚えてる。…彼女の言葉、動作…笑顔。どれも僕の頭に刻み込まれて、あれからずっと薄まることはない、また…逢えたんだ。 「えと、あの…何処かで会いました?」 何故自分はこの前彼女を倒さなかったのかと今になって後悔した。馬鹿みたいだ、こんなの。…ただのひとりよがりじゃないか。一方的に逢いたいと願ってて、やっと逢えて。それで彼女は覚えてないっていうんだから。苛々よりも自分に対する情けなさが大きくなってくる。…いつから僕はこんなに愚かになったんだ。 「この前…夜、絡まれてた君を助けたんだよ」 じっと考え思い出した瞬間ぽんっと手を打って笑顔を向けてくる。さっきまで僕は彼女に怒っていたはずなのに。(その笑顔が見れたから許せる、だなんて)「あの時は助かりました」お礼の言葉を口にして頭を下げようとした彼女を、急いで止める。「待って、頭を下げないで」「…?」「…書類がまた落ちる」僕の言葉で漸く自分が書類を持っていることを思い出したらしい。ああ!と声をあげて下に落ちているプリントに目を向ける。「ひ、拾わなきゃ…あ、で、でも…」「…はあ(全く…)」どこまで彼女は馬鹿なんだろう。大きく溜息をつき彼女が持っている大量の書類を取り上げた。それを床に倒れないように置いて、下に落ちている書類を一枚一枚僕は拾い出す。(この僕がボランティア活動なんて…なんだか笑える) 「あ、ありがとうございます…っ」 僕が拾うのを見て彼女も急いで書類を拾い始める。近くにあった一枚にざっと目を通して、それが風紀委員宛になっていることに気付いた。聞けばその通りという返事。…にしても、先生に頼まれて、か。おかしな話だ。この中学に通う連中の殆どは風紀委員の恐ろしさは知っているだろうに。「私、今日転入してきたんです。すまないけど、って何故か泣きそうな顔でお願いされちゃって…」「へえ…」「他の人に応接室への道を聞いても教えてくれないし、此処まで来るのも大変でした」聞かずと理由が分かった。成程、それで全て納得がいった。転入生なら確かに風紀委員のことも知らないだろう。風紀委員宛の書類を転入生に渡すとは…少し、意地が悪い気もするけれど。 「皆応接室って聞くと目の色変えて逃げちゃうんです。…何かあるんですか?」 落とした書類も一通り揃い彼女に渡す。全てあると確認した後に此処に来るまでに生まれた疑問を彼女は僕にぶつけてきた。…不思議そうな目。「…こういうことだよ」彼女の腕をぐいっと引っ張り応接室の扉を閉める。そのまま扉に彼女の身体を寄せ腕をついた。じ、っと僕は彼女を見る。彼女は…真っ直ぐな瞳で、こっちを見つめる。この状態から無理矢理襲うことだって出来る。出来る、はずなのに…彼女の純粋に不思議がっている目をみていると、どうしても無理矢理なんて出来なかった。「冗談、だよ」彼女の手から書類を取って踵を返す。 「書類は確かに受け取った。届けてくれてありがとう、もういいよ」 ぺこりと一礼して彼女は扉に手をかける。…そう、ここへの用事はもう済んだんだからそんなの当たり前だ。(だから、行かないでと思うのはおかしいだろ?)せめて最後までと彼女の後ろ姿を見つめていたら急に彼女が振り返った。目が、合う。 「この前も今日も、すごく感謝してます。優しいんですね、雲雀くんて」 彼女が応接室を出て行って、扉が閉まって。彼女の足音が聞こえなくなるまで僕はずっとそのまま立ち続けた。静けさが戻ると馬鹿みたいにその横にある椅子に座り込む。 「はは、は…」 …本当に、馬鹿みたいだ。また、この前みたいに最後の彼女の笑顔に見惚れてしまうなんて。「優しいんですね、雲雀くんて」さっきの言葉が頭の中で繰り返される。…そんなことないよ、さん。僕は全然優しくなんかない。ただ…どうしても君には適わないから。君が困っていたら、助けずにはいられないから。 「…本当に、同じ人間なのかな」 そんなことまで考えてしまう、僕は重症だ。(君が可愛くて可愛くて仕方ない)
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