出逢いは、鮮烈。





あの日君と出逢えたこと。ありがちだと言われても構わない、僕にはそれはどうしたって『運命』としか思えなかった。…だって、そうだろ?正反対の僕達、生きる世界も全く違う僕達が出逢うなんて、それこそ『奇跡』だ。『運命』で『奇跡』。ああ、何て素晴らしい出逢いなんだろう。僕は世界に感謝する。

(彼女と出逢わせてくれて、ありがとう)




羽を求めた悪魔の子 act,1




物凄く腹が立つ日っていうのは誰にでもあるものだ。僕の場合は大概苛々している日が多いけど、その日は特にだった。夜街を歩くとやたら気に入らない奴が大勢見つかる。始めの内は咬み殺すのが楽しかったそれも、暫くするとだんだん苛つきの原因になってきた。…何でこんなに群れる奴らばかりなんだ。虫の居所が悪かった、とでもいおうか。とにかく裏路地に入り気に入らない奴を片っ端から咬み殺した。1匹、2匹、3匹。倒す度に数えていたものの、10を超えたところで数えるのにも飽きた。ぱっと周りを見ても漸く人がいないところまでたどり着く。やっとの思いで手に入れた静寂だ。満足げに笑おうとしたのに…今日はとことん運が悪いらしい。聞くだけで鬱陶しいと感じる声が響いて来る。

「こんな遅い時間に何やってんだあ、嬢ちゃん」
「道に迷ったなら俺達が案内してあげようかぁ?」
「っていうか俺達と遊ばね?」

ぴき。頭のどこかでそう聞こえた気がした。声が聞こえる方向へと足を進める。(うざいうざいうざい何でこんなにうざったい奴らばかりなんだ)声の発生源は思ったよりも近くで、すぐ横の路地だった。予想通りというか面白味のない、数人の男が一人の女を壁に寄せて取り囲んでいる姿。手にトンファーを持っていることを確かめ、心の中で呟く。運が悪かったね、今日、僕は物凄く機嫌が悪いんだ。一歩ずつ連中に向かう。

「…ん?何だおまえ」
「悪いけど消えてくれるかな。…目障りだよ」
「何だとぉ!?」

ワオ、何て怒りやすい連中だ。自分のことは棚に上げて大袈裟に驚く。いきなり殴り掛かってきた…そうだな、男Aとしておこう。男Aの拳をすっと横に避け、トンファーで思いっきり殴る。ガッ。思ったよりも良い音がした。骨が折れているかもしれない。(いい気味だ)

「って、てめえ…!!」
「俺等の仲間に何やってんだよっ!!」
「…僕は群れる奴らは大っ嫌いなんだ。    だから、咬み殺す」

その後は一気に殴り掛かってくる奴らを全員倒すだけ。楽なもんだ。余りにも連中が愚かな所為か、少しずつ高まってくる高揚感。いつの間にか苛々してた気持ちも何処かに行ったみたいだから…そこは感謝しなくちゃね。お詫びに救急車はちゃんと呼んでおいてあげよう。これぐらいの傷ならちゃんと乗せてくれるだろう。











全員咬み殺した後に一人ぽつんと立っている奴に気付いた。…ああ、そうか。こいつらに絡まれてたんだっけ。暗くて表情が見えないけど、多分…いきなりやってきて連中を倒した僕に怯えているんだろう。そいつの前まで行き、呟く。

「君も咬み殺されたくなかったら、早く何処かに行くことだ」

持っていたトンファーを収めて、携帯を取り出す。救急車を呼ばないといけない。こいつら全部で何人いたんだ?1、2…ああ、数えるのが面倒だ。多分5台だろう、と予想をつけてかけようとボタンを押す。そこで何もおきなければ電話をして家に帰り、楽しかったとゆっくり寝るだろうに。…後ろから、声が聞こえて。

「っあの、ありがとうございました!」
「…は?」

ぺこっと音がしそうなぐらい深く、彼女は頭を下げる。…お礼を言ったらしい。…僕に?この僕に?意味が分からなくてもう一度彼女の前に立つ。「ねえ君、何やってるの」「助けてもらったから…ありがとうございます」どうやら助けてもらったと勘違いしているらしい。はあ、と大きな溜息をつく。「別に助けたわけじゃないよ。…それよりいつまで頭下げてる気?早く上げたら」「あ、はいっ!」いつまでも感謝されるのも困るので声をかけると、威勢のいい返事が聞こえ……     ゴンッ !

「…………………」
「…あ、す、すみませんごめんなさいほんとすみません…っ!!!」

どうやらさっき頭を下げた時みたいに勢いよく上げたらしい。彼女の頭は僕の顎にクリティカルヒット。じんじんする。「す、すみませんごめんなさい…っ!」焦っていつまでも謝り続ける彼女とは違って僕は冷静だった。…決めた。こいつ、絶対咬み殺す。自分が思ったよりもずっと怒っていることに気付いた。もう一度トンファーを取り出しぐっと握る。その時ふっ、と僕よりも身長の低い彼女に目を向けた。謝るため頭を下げていた彼女もちょうど顔を上げる。


(その時の興奮は、きっと忘れられない)


目。綺麗な彼女の瞳に、一瞬で飲み込まれた。そういえば…初めて、彼女の顔を見たのかもしれない。真っ白な、肌。流れる髪。今となっては馬鹿な話だ。芽生えた殺意を、何もせずに消し去られたんだから。そして、情けないことに…僕は握りしめていたはずのトンファーをいつのまにか落としていた。ガタン。「あ、」彼女が驚いてしゃがみ込んだところで漸く落としたんだと気付いた。僕も拾うために急いでしゃがみ込む。既に彼女はトンファーを拾ってくれていて、目を丸くしそれを見ていた。

「重いんですね、これ。…それに硬い。持つの大変じゃないですか?」
「……別に」
「あ、すいません勝手に見ちゃって!は、はい!」

素っ気なく返事をした僕を機嫌が悪いと思ったんだろうか。(いや、実際さっきまでそうだったんだけど)また謝って僕に差し出してくる。「…ありがとう」ぼそっとお礼の言葉を述べる。…彼女は、笑ってた。

「じゃあ私は帰りますね。本当にありがとうございました」
「…ねえ」
「はい?」

「…気を付けて、帰りなよ」

去ろうとする彼女に僕が叫んだ言葉。彼女は返事の代わりに、笑った。見ていられなかった。(だって、あまりに綺麗すぎて)僕は暫くその場に突っ立って、魂の抜け殻みたいにそこに存在していた。