欲しいものを手に入れる覚悟!







「ある女の子が弁当食べる人がいないのかうろうろしてたらね、体育祭なのに制服、しかも中学指定じゃないのを着ている男の子がその子の手を無理矢理引っ張って校内に連れていったのよ!最近の子は進んでるのねー。…ああでもあの男の子、本当にかっこよかったわ…」(子供の応援に来たある保護者より)




頭がぐらぐらする。気分が悪い。ずっとその状態のまま私は競技を続けた。応援するだけなら、京子だって花だって友達はたくさんいる。だから出来るだけボスの方を見ないようにしていたけどどうしてもちらっと見てしまって、こっちを見ているボスと目が合い、すぐにボスが視線を逸らすところを見たら、胸が更に締め付けられた。秘密にしようとしてたわけじゃない。ボスにもいつか風紀委員のことを言わなきゃいけないと思ってた。それがただ、早すぎただけ。自分が思っていたよりも、早く知られただけ。それだけなのに…




、嘘だろ…?」




ボスの言葉が甦る。あんなに、あんなにボスが驚くなんて思わなかった。ボスのことだから、笑って「なんだ、それなら早く言ってくれればよかったのに!」と笑うと思ってたんだ。驚いただけだとは思う。…だけど、怖いんだ。獄寺にあんなに拒絶された今、ボスと向き合うことが、怖い。もう本当に元の関係に戻れないかもしれないと思うと、怖い。











「……お弁当、どうしよう」

午前の競技が終わりお昼休み。ボスのところにお邪魔させてもらおうと思っていたけれど…無理だ。今の状態じゃボスのところになんていけない。でも他の人達は親と一緒に食べるわけだし、私、は、どうしたら…。


「雲雀さん?」

どこか食べれる場所はないかとうろうろしていると、さっきと同じ場所にいた雲雀さんが声をかけてきたことに気付く。なんだかちょっと複雑な表情をしているようで、私は不思議に思った。「行くよ」「へ?」弁当を持っていない片方の手を急に掴まれ、そのまま歩く雲雀さんに引っ張られる。「ひ、ばりさん!?」「いいから」無理矢理引っ張られてるのに、でも1人でいた私にその手の温かさはすごく優しく染み込んで、どうしようもなく、泣きそうになった。何で雲雀さんは、こんなに優しいんだろう。…私は雲雀さんに、助けてもらってばかりだ。












応接室につき、中に入ると雲雀さんは腕をようやく離した。そうしてソファーに座ると「ほら」と言って向かい合うソファーを指差す。…どうやら座れと言っているらしい。そう解釈した私は遠慮がちに腰を下ろし、雲雀さんを見つめた。「食べなよ」「はい?」「お弁当。今お昼の時間だろう」そこまで言ってやっと、私は分かった。ああそうか、雲雀さんには、分かっていたんだ。私がボスと食べるつもりだったこと。そしてさっきのことがあった今、それは無理だろうということ。だからわざわざお昼の時間になって外に出て来て、私に声をかけた。応接室に連れて来た。…全部、全部、私のためだったんだ。ぐっと涙をこらえてお弁当を食べ始める。雲雀さんが身を乗り出してくるのが目の端で見えた。

「あれがボス?」
「はい」
「そうか…やっと合点がいったよ。赤ん坊とも、君は知り合いだったわけだね」
「赤ん坊は、多分、師匠のことです」

雲雀さんはボスを襲ったことがあると、そう聞いている。結構危ないところだったということも。だから雲雀さんがボスを知ってることも、赤ん坊…師匠を知っていることも、驚くことじゃない。だけど次の雲雀さんの言葉には、動揺が隠せなかった。

「…辞めていいんだよ。本当にイヤなら」
「やめ、て?」
「風紀委員」

風紀委員を、辞める?私が?冗談だろうと雲雀さんを見るけれどその瞳に嘘は感じられない。…本気で、言ってる。雲雀さんは。私がイヤならって、また私のことを思って、言ってる。…もうなんで、この人は。雲雀さんの優しさとか、ボスとの離れた距離とか、堪えていたたくさんのもの。それが雲雀さんが私の頭を優しく叩いた瞬間、溢れ出した。涙が止まらない。

「辞めたくないです…でも、ボスと、離れたくない…」

風紀委員を辞めれば、きっと全部丸く収まるんだ。ボスとのことも、獄寺とのことも。だけど、そうしたら雲雀さんは?何度も私を助けてくれた雲雀さん。優しくしてくれた雲雀さん。その雲雀さんと離れることになってしまう。…それも、イヤだ。どっちも私にとって大事だから、どっちも無くしたくない。でも片方を選べば片方は上手くいかない。…何でこんなに難しいんだろう。欲しいものが全て手に入ればいいのに、絶対そういうわけにはいかない。寧ろ欲しいものが一つも手に入らない場合だって、あるんだ。私は、どうする?どうすれば、いい?




雲雀さんが、前に座っていた雲雀さんが立ち上がり、私の横に座った。私の肩に手をやると、優しく抱き寄せてくれる。…雲雀さん、雲雀さん。こういう人だから私は、風紀委員を辞めることが出来ないんだ。意地っ張りで、素っ気なくて、でも優しい人。止まらなかった涙が、少しずつ、収まる。…大丈夫。きっと大丈夫だ。ボスは、分かってくれる。きっと分かってくれる。さっきまで悪い方向にしか考えられなかったものが、前向きに考えれるようになる。雲雀さんの、おかげ。雲雀さんが言葉はなくても慰めてくれるから、私は傷付いた心を抱えながらも立ち向かうことができる。

「…雲雀さん、私、頑張ってきます」

「風紀委員は絶対に辞めません。ボスとも、離れません」

少し残ったお弁当を片付け、私は立つ。ボス、待っててください。私はちゃんと、自分の気持ちを伝えます。風紀委員をやりたいけれど、ボスの傍にもいたいと、そう伝えます。ボスは、分かってくれますよね?

「…がんばって」

決意をし、真っ直ぐ雲雀さんを見る私に、雲雀さんは笑った。本当に、笑った。優しく…笑った。雲雀さんの笑顔は、不思議だ。私の心を温かくさせる。それは、そう。ボスの笑顔と同じ。ボスの笑顔を見る度に、私の心は温かくなる。優しい人の笑顔とは、こんなにも温かい。

「いってきます」

もう負けない。弱気になんかならない。ボスのことも、雲雀さんのことも、大切にしたいから。私は、欲しいものを両方手に入れてみせる