ボスを信じて!







「まだ小さな頃からのことは知ってるけれど…あの子は本当に可愛いわね。リボーンの弟子、ってこともあって事実力もあるし、隼人が惹かれるのも分かるわ。最近はツナにお熱みたいだけど…どこがいいのかしら、ツナの。まあ、私にとっては妹みたいな存在かしらね」(お姉さん的存在ビアンキより)




ボスのことを信じていないわけじゃない。…だけど、怖いの。いざ本当のことを話して、拒絶された時が。ボスに、否定的な目で見られることが。

だから教室に戻って、ボスの姿を確認した時その横に獄寺がいたのには胸が騒いだ。獄寺がボスの横にいるのは当たり前だ。私はいつもその2人の間に割って入り、ボスに挨拶する。でも今日は、足が動かない。(もし、ボスが、知っていたら。獄寺が全部、話していたら)そう考えるとどうしてもボスの近くに行けなくて、自分の席へと行ってしまう。…ボスに、挨拶することも出来ないなんて。自分に対する情けなさで胸がいっぱいになり、鞄を机の上におくとそのまま突っ伏す。ああ、もういやだ。先生がやって来たのか「きりーつ!礼!」の声が聞こえたけれど立ち上がらなくても起こられなかったので、改めて一番後ろの席の良さを知る。いつもは、朝礼前にボスに挨拶するのがそれこそ当然で、「おはようございますボス!」「おはよう、 」ってその掛け合いはどんな日だって変わらないものだったのに。当たり前というのは、本当に、あっという間に崩れ去る。…昔から言われてるのはそういう理由からなのかな。積み立てることは難しくても、崩すことは簡単だ、と。

「…おい、大丈夫か?」

横から声が聞こえたので顔をゆっくりと上げ確認する。さっきみたいに、山本が心配そうにこっちを見ていた。どう返事を返せばいいのか思い付かなくて、曖昧に笑って誤魔化す。小さく、山本が呟いた。「…無理して笑う必要はねーよ」どきん、と心臓が跳ねた音がした気がした。ああもう…やっぱり、いやだなあ。何で私の周りはこう、優しい人達ばかりなんだ。ボスだって山本だって雲雀さんだって…獄寺、だって。分かってるよ、獄寺が私のことを考えてそう言ってくれたこと。この状況に甘んじてちゃいけないって教えてくれたこと。ただそれが的確に現実を現していて、辛かっただけ。…それだけだ。

「ねえ山本。1つ、聞いてもいいかな」
「ああ、いいぜ」

気付けば。すっと口が言葉を紡いでいた。何も言うつもりはなかったのに、ほんと、いきなり。それは山本が、優しいからなのかもしれない。山本になら、話してもいい気がして。…全く、私は卑怯だ。甘えちゃいけないって分かっているのに、また甘えてしまう。優しさに頼らないと、立つことすら出来ないんだ。何て弱いんだろう。何て、情けないんだろう。ああだけど、人は、1人では生きられない生き物でしょう?なら、頼っても許されるんじゃ、ないだろうか。

「あのね…もし、山本にずっと傍にいたいと思う人がいたとして、その人の傍にいようと誓っていたのにある日、また1人傍にいたいと思う人と出会って。後から会った人の傍にもいることになって、実質、初めに大切に思っていた人に裏切るようなことになっちゃったら、どうする?その人がその事実を知ったら自分を軽蔑するような気がして、言い出せなくて。そうしたらどうする?山本なら、どうする?」

その問いに、どう答えて欲しかったのか私には分からない。分からないけれど、口にした。口にしてみないと、自分の考えが分からなかった。だけど言ってみても、分からなかった。自分が何を考えて口にしたのか、分からなかった。それでも山本はうーん、と少し唸って、「そうだな、」と言い始めこっちを向く。

「まあ、そいつを信じるしかないんじゃねーの?」
「…信、じる」
「ああ。大切なやつならなおさら。だって、そいつのこと大切なのは、そいつが良い奴だからだろ?そんなことで自分を軽蔑するような奴なら、初めから大切になんか思わないんじゃないかと、俺は思うけど」

…そう、か。そういうことなんだ。私は、やっぱり何も分かっていなかった。ボスのことが大切だって、ボスは良い人だって、それは自分が一番知ってるのに…信じていなかった、ボスを。ばかばかばか!自分を思いっきり罵る。良い人だ大切だ、なんて言いながら、自分が信じていなくてどうするんだろう。決めたくせに。あの日、あの時、あの場所で、ボスが笑いかけてくれた時から。




『俺は嬉しかったよ。君が、ああいう風に俺を庇ってくれて』




そのことに気付いたら、急に胸が軽くなった。ずっとのしかかっていた重い荷物を降ろした後のような、喉につっかえていた異物が通り抜けた後のような、そんな爽快感。今なら、いけるかもしれない。がたんと椅子から立ち上がり、ボスを見る。周りに獄寺はいなくて(多分いつものサボりだろう)、今日宿題の理科の宿題に必死に取りかかっている。大丈夫、きっと、大丈夫だ。自分にそう言い聞かせて、ボスの元へ行く。恐る恐る、声をかけた。「…おはよう、ございます。ボス」言った後に怖くなり、そのまま下を俯く。沈黙が怖い。かりかりと動いていたシャーペンの音が、ふっと止んだ。

「あ、おはよう、

普段通りの、明るい、ボスの声。あまりに普通すぎて、顔を上げてボスを見ると、照れたように笑っている。「宿題、終わんなくてさ…今必死にやってるんだ」話題も、普通。私を軽蔑しているような発言なんか、全くない。…信じてみれば、よかったんだ。ボスを。これは多分、まだ、獄寺がボスにそのことを言ってないからだろうけれど、だけど、ボスの笑顔。あの時と同じ笑顔を見たら、不思議と大丈夫な気がしてきた。ボスになら、風紀委員のことを言ったって、笑って「そうなんだ」って言ってくれそうな、勝手な想像。それでもそれは、強ち勝手な想像というわけでもないと思う。…だってあのボスだ。誰よりも強くて、誰よりも気高くて、誰よりも優しい、そんなボス。そんなボスが軽蔑するなんてありえないだろうし…いや、違う。信じてる、からだ。ボスを。ボスはそんな人じゃない、そんなことで嫌がる人じゃないと、私はそれを知っている。信じて、いる。不思議だね。ボスの笑顔1つで、救われるなんて