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そう言って私は離れるために山本の胸を押した。いつまでもこの体勢でいるわけにはいかない。「…ほんとにもう大丈夫なのか?」尋ねてくる山本にうんと無理矢理笑いながら返したら、「そっか、ならいいんだけど」漸く真剣な表情でなく普段の山本のように笑ってくれたので、「うん、ありがとう」と今度は自然に笑うことが出来た。 「じゃー俺は部活行くわ」 にかっと最後にまた笑って、山本は走り去る。最後の気にすんなは、きっと、素直に謝った私への言葉だけじゃなくさっきの獄寺とのこともなんだろうなあとなんとなく思った。詳しいことは何も知らないはずなのに、何故だろう、山本は、大体の事情を理解している気がする。…本当は、お礼を言っても言い足りない。どうしようもない、行き場のなかった苦しみが少し薄れたのは、山本のおかげなんだ。ありがとう、山本。…本当に、ありがとう。
とにかく、いつまでもぐずぐずしているわけにはいかない。雲雀さんの元へ戻らなければ。応接室を前に、数回大きく深呼吸をし、「失礼します」声をかけて扉を開けた。書類に目を通していた雲雀さんは私に気付くと視線を上げ、だけど私と目が合った瞬間ちょっと眉を顰めた。…ん?出来る限り普通にしていようと思ってたのに…失敗した?それともまさか泣いたから目が赤くなってるとか…? 「ひ、ばりさん。あの、遅刻者リストもらってきま…」 何かあったの、って…それは私に、聞いているんだよね。…な、何で雲雀さんそんなことまで分かるんだ…!内心驚きながらも「いえ、何もありません!」と首を横に振った。「…そう」ちょっと慌ててしまった私に特に反応も見せずに頷き、立ち上がって近付いて来た。手を伸ばして来たので遅刻者リストを求めているんだと気付き雲雀さんに向かって差し出すと、黙って受け取る。簡単に目を通した後「うん、これでいいみたい」と確認の言葉を呟いた。 「あの、じゃあ次に私は何をすれば…」 す、と雲雀さんの手がまたゆっくりと伸ばされる。今度は何かとちょっと用心していたら、私の髪に触れた。ええ!?と私が驚き雲雀さんを見ていられなくなって下を俯いた瞬間、 ぽん、 と頭を、優しく、叩かれた 。「今日は、もういいよ。朝早く一緒に来てもらったし」そのまま私に背を向け机に向かう途中、もう一度呟く。「…1人で抱え込むのは、止めなよね」それだけ言うと雲雀さんはまた机に向かい、書類に目を通す。もう、こっちは見ない。どうしようかと迷っていたけれどいつまでたっても話なども何もないので、ならばお言葉に甘えてと応接室の扉を開けた。雲雀さんを振り返って、小さく、呟いた。 「…ありがとう、ございます」 聞こえたかは分からない。本当に、本当に小さい声だったから。それでもなんとなく届いた気がして、雲雀さんの様子は見ずに扉を閉めた。廊下を歩く。 今日、頭を叩かれたのはさっきので3度目だ。1度目は、雲雀さんにバイクから降りた時。あの時は、ただただ頭に触れられただけで、物凄くどきどきした。2度目は、泣いた時山本に。自分の抱えてた想いが溢れて、辛かった。…でも、さっきのは、違う。さっきのは1度目とも2度目とも違って……嬉し、かった。ただ、頭を叩かれただけなのに。それでも、手の触れ方、と、雲雀さんの言葉。私の希望、なのかもしれないけど…すべてを許された気がして、どうしようもなく、泣きたくなった。獄寺と言い争っていたのを見た山本とは違って雲雀さんは何も知らないはずなのに…優し、かった。私に何かがあったとすぐに気付いて、心配してくれた。…慰めようと、してくれた。 私は、ずるい。私は、卑怯だ。ボスが大切だと言いながら、ボスを傷つけたことがある人を手伝っている。獄寺に言われて、迷った。風紀委員を止めることが一番いいんだと、そうも思った。…でも、ごめん、なさい。特別なことを言われたわけじゃないけど、でも…どうしてかすごく、嬉しかったから。雲雀さんが、優しかったから。甘えるのはいけないことだと分かっていながらも、その優しさに、惹かれてしまったから。許して欲しい…風紀委員を続けること。雲雀さんの傍に、居続けたいと願うこと。(許して…くれますか?) |