裏切り者の涙!







さん、獄寺くんとは恋仲っていうよりどちらかというと犬猿の中って感じなんだけど…でもやっぱり私達からしたら羨ましいよ!あの!クールで頭が良くてかっこいいけど女の子には興味のない獄寺くんとあそこまで仲良く…ああ、羨ましい…。そうそう、獄寺くんと言えばこの前…(以下延々と獄寺の話)」(獄寺くん大好き!女子生徒より)




「獄寺…?」

さっきから黙ったままで、でも腕を握り続ける獄寺は、怒って、いた。普段の怒り方とは、また違う。静かに怒るというか…感情を抑えて、とでも言うのだろうか。とにかく怒っていると。それぐらいのことは、普段時間を共有するのが多い相手だし、理解が出来た。でも…なんだか、怖い、と思った。静かに…心の奥で怒っている獄寺が。本当はすごくすごく怒っているくせに、表面にはそれを出してこない、獄寺が。

「……………」
「ねえ、どうしたの?何もないなら私、用事あるし戻りたいんだけど…」
「ヒバリのとこにか?」
「…え……?」

沈黙を貫いていた獄寺が言葉を発したということよりも、獄寺の口から「ヒバリ」という単語が出て来たことに驚いた。…だって、言って、ない。風紀委員になったのはちょっと前だけど、応接室に行く時はいつも「用事があるので」ってそれだけ言っていなくなっていたんだ。…獄寺にだって山本にだって…勿論、ボスにだって言っていない。それなのに何で…獄寺の口から、雲雀さんの名前が出てくるんだ。

「な、に言って…」
「…見たんだよ。今日の朝、お前が雲雀と二人でバイクに乗って学校来るとこ」
「!」

誰にも見られずに学校に来れたとは思っていなかったけど…まさか、獄寺に見られるなんて思いもしなかった。風紀委員になるぐらいいいじゃないかと考える人もいるだろう。……でも、そうじゃない。分かってるんだ。獄寺と私は似てるから。同じように、ボスを大切にしているから。だから、獄寺が言いたいことは嫌でも伝わってくるんだよ。苦しい程、伝わってくるんだよ。 (でも、出来るなら、 伝わってきて欲しくなかった 。 )

「お前は、嘘を吐くんだな」
「嘘?」
「ああ。10代目のことが大切だ、絶対に自分が守るとか言っておきながら…風紀委員なんて」

吐き捨てるように呟く獄寺に怒りが湧くのを感じると同時に、胸がずきんと痛んだ。…違う。嘘、なんかじゃない。

「それとこれとは関係ないでしょ?風紀委員になったからボスを守れないなんてことはない」
「関係大アリだ!お前、ヒバリは俺達を襲った奴だぞ!?俺と山本だけじゃない、10代目もなんだぞ!?」
「それぐらい知ってるわよ」
「じゃあ何でそんな奴と学校に来るんだよ!そんな…見知らぬ連中をいきなり襲うような、おかしい奴と…」
「っ雲雀さんのことを悪く言わないで!」
「!」

怒りを抑えてと努力していた私も、雲雀さんのことを悪く言われては我慢の限界だった。声を荒げて叫ぶ。…何も、知らないくせに。雲雀さんの何を獄寺が知ってる?獄寺は何も知らない。雲雀さんが優しいとこだって、たまに浮かべる笑顔は素敵なとこだって、面倒見がいいとこだって…何も、知らないじゃない。それなのに何で雲雀さんを悪く言われなきゃいけないの?何で…風紀委員に入ったら嘘吐きだなんて、言われなきゃいけないの?……ボスに対する裏切り行為みたいな、言い方をされちゃうの?

「…アイツのことを言ってんじゃねえ。お前のことを言ってるんだ!俺達に黙ってるってことは…お前だって風紀委員になるのが悪いことだって、そう思ってんだろ!?だから言えないんだろ!?」
「…そ、れは……」
「違うのかよ」

…否定が、出来ない。違うと、そういうことが出来ない。…だって、その通りだ。言うチャンスは何時だってあった。あの時も、あの時も…あの時だって。いっぱいあったのに言わなかった。ううん、言おうともしていなかった。…それは、獄寺が言うように、悪いことだと、思ってるからなの…?風紀委員になることはボスに対する裏切り行為だって、そう、自分が一番分かってるからなの…?そんな、ことない…そんなことない、よ。ちがうよ、ちがうんだよ。そんなんじゃない。そんな考えで黙ってたんじゃない。…そう、言えたらいいのに。言えないんだ、分からない、んだ。自分の考えが、分からない。どうして言わなかったのかが、分からない、よ。






時間が、暫く経ったが気がした。私は黙って俯いたまま。獄寺も黙って、私を睨んだまま。静かで、そして殺伐としたその雰囲気に、大きな声が響いた。

「おーい、に獄寺!何やってんだ?」

山本、だった。声が聞こえて、獄寺がちっと舌打ちするのが聞こえる。私は、必死に涙が出そうなのを堪えたまま山本の方を向いた。私と目が合った瞬間、山本の明るそうな笑顔は消え、すぐに真剣な目つきになる。「…なんか、あんま良い雰囲気じゃあねーみたいだな」山本の呟きが聞こえたのか、獄寺はゆっくりと私の手を解放した。長い時間握り続けられた手首は、少し、赤くなっている。私の前を通る時に、獄寺は、私にだけ聞こえるような声で呟いた。

「…裏切り者」

ずきん、とまた胸が痛んだ。さっきよりも、ずっとずっと苦しい。獄寺の姿が見えなくなり、私はその場にしゃがみ込む。山本が走って来て、大丈夫か?と尋ねてきた。「だい、じょうぶじゃ…ない、かも」そのまま正直に話すと、山本は私の頭をぐいっと自分の方に引き寄せた。山本の肩に頭がぶつかる。ぽんぽんと、優しく頭を叩く山本が泣きそうになるぐらい温かくて、ちょっとだけ、本当に本当にちょっとだけだけど涙が流れた。すぐ涙を止めなきゃと思いつつも、泣かずにはいられなかった。悪いとは思いつつも、山本の優しさに縋らずにはいられなかった。…雲雀さんのところに戻らないといけないと思いつつも、足は、進まなかった。ボス、雲雀さん。…ごめん、なさい