|
さっきから黙ったままで、でも腕を握り続ける獄寺は、怒って、いた。普段の怒り方とは、また違う。静かに怒るというか…感情を抑えて、とでも言うのだろうか。とにかく怒っていると。それぐらいのことは、普段時間を共有するのが多い相手だし、理解が出来た。でも…なんだか、怖い、と思った。静かに…心の奥で怒っている獄寺が。本当はすごくすごく怒っているくせに、表面にはそれを出してこない、獄寺が。 「……………」 沈黙を貫いていた獄寺が言葉を発したということよりも、獄寺の口から「ヒバリ」という単語が出て来たことに驚いた。…だって、言って、ない。風紀委員になったのはちょっと前だけど、応接室に行く時はいつも「用事があるので」ってそれだけ言っていなくなっていたんだ。…獄寺にだって山本にだって…勿論、ボスにだって言っていない。それなのに何で…獄寺の口から、雲雀さんの名前が出てくるんだ。 「な、に言って…」 誰にも見られずに学校に来れたとは思っていなかったけど…まさか、獄寺に見られるなんて思いもしなかった。風紀委員になるぐらいいいじゃないかと考える人もいるだろう。……でも、そうじゃない。分かってるんだ。獄寺と私は似てるから。同じように、ボスを大切にしているから。だから、獄寺が言いたいことは嫌でも伝わってくるんだよ。苦しい程、伝わってくるんだよ。 (でも、出来るなら、 伝わってきて欲しくなかった 。 ) 「お前は、嘘を吐くんだな」 吐き捨てるように呟く獄寺に怒りが湧くのを感じると同時に、胸がずきんと痛んだ。…違う。嘘、なんかじゃない。 「それとこれとは関係ないでしょ?風紀委員になったからボスを守れないなんてことはない」 怒りを抑えてと努力していた私も、雲雀さんのことを悪く言われては我慢の限界だった。声を荒げて叫ぶ。…何も、知らないくせに。雲雀さんの何を獄寺が知ってる?獄寺は何も知らない。雲雀さんが優しいとこだって、たまに浮かべる笑顔は素敵なとこだって、面倒見がいいとこだって…何も、知らないじゃない。それなのに何で雲雀さんを悪く言われなきゃいけないの?何で…風紀委員に入ったら嘘吐きだなんて、言われなきゃいけないの?……ボスに対する裏切り行為みたいな、言い方をされちゃうの? 「…アイツのことを言ってんじゃねえ。お前のことを言ってるんだ!俺達に黙ってるってことは…お前だって風紀委員になるのが悪いことだって、そう思ってんだろ!?だから言えないんだろ!?」 …否定が、出来ない。違うと、そういうことが出来ない。…だって、その通りだ。言うチャンスは何時だってあった。あの時も、あの時も…あの時だって。いっぱいあったのに言わなかった。ううん、言おうともしていなかった。…それは、獄寺が言うように、悪いことだと、思ってるからなの…?風紀委員になることはボスに対する裏切り行為だって、そう、自分が一番分かってるからなの…?そんな、ことない…そんなことない、よ。ちがうよ、ちがうんだよ。そんなんじゃない。そんな考えで黙ってたんじゃない。…そう、言えたらいいのに。言えないんだ、分からない、んだ。自分の考えが、分からない。どうして言わなかったのかが、分からない、よ。
「おーい、に獄寺!何やってんだ?」 山本、だった。声が聞こえて、獄寺がちっと舌打ちするのが聞こえる。私は、必死に涙が出そうなのを堪えたまま山本の方を向いた。私と目が合った瞬間、山本の明るそうな笑顔は消え、すぐに真剣な目つきになる。「…なんか、あんま良い雰囲気じゃあねーみたいだな」山本の呟きが聞こえたのか、獄寺はゆっくりと私の手を解放した。長い時間握り続けられた手首は、少し、赤くなっている。私の前を通る時に、獄寺は、私にだけ聞こえるような声で呟いた。 「…裏切り者」 ずきん、とまた胸が痛んだ。さっきよりも、ずっとずっと苦しい。獄寺の姿が見えなくなり、私はその場にしゃがみ込む。山本が走って来て、大丈夫か?と尋ねてきた。「だい、じょうぶじゃ…ない、かも」そのまま正直に話すと、山本は私の頭をぐいっと自分の方に引き寄せた。山本の肩に頭がぶつかる。ぽんぽんと、優しく頭を叩く山本が泣きそうになるぐらい温かくて、ちょっとだけ、本当に本当にちょっとだけだけど涙が流れた。すぐ涙を止めなきゃと思いつつも、泣かずにはいられなかった。悪いとは思いつつも、山本の優しさに縋らずにはいられなかった。…雲雀さんのところに戻らないといけないと思いつつも、足は、進まなかった。(ボス、雲雀さん。…ごめん、なさい) |