遅起きは三文の損!







「近所のちゃんね。ちゃんはねえ、愛想もいいし可愛いしでほんと良い子よ。この前もたくさん作ったおかずをあげたらとても喜んでくれたわ。…ここだけの話、ちゃん、男がいるみたいなのよ。この前その人がちゃんの家に入るのを見たんだけど…それがまたかっこよかったのよねー。羨ましいわー」(の近所のおばさんより)




すんごい怖い鬼が私に向かって叫んでる。…何?早く起きろ?そんなこと言われても身体が上手く動かないし、足にも力が入らない。え?早く起きないと知らない?ぎゃ、お、怒り出したー!!…という夢を見た。自分でもまたもや意味の分からない夢を見てしまったと首を傾げる。何で最近こうも鬼の夢ばかり見てるんだろう…。余程怖いものに怯えてるんだろうか、私。それにしても眠い。あー、眠い。もう一眠りしようと布団を被り直しうとうとしてきた所で声が聞こえた。「…里砂」ああもうせっかく寝ようとしてるのに!「まだ寝る…」無意識のうちに声を出す。そうだよまだ寝るんだからほんと起こさないで欲し…あれ?…私、一人暮らし、だよね?声、聞こえた、よね?

「僕の目の前でまだ寝るとは良い度胸だね。そんなに咬み殺されたいの?」
「っっっっっっひー!!!」

ぐるっと布団の中で身体を回転させて上を見る。と、なーんとそこには風紀委員長の雲雀さんが!……あの、ほんと、何でいるんでしょうか。そして説明を加えておくならば私はひー!と叫んだわけでなく「雲雀さん」と言おうとしたところその本人である雲雀さんに口を塞がれたためそうなってしまったんだとかそんな変なこと考えていても私の上に雲雀さんというこの構図は変わらない。「大声出すと近所迷惑だよ」笑顔を浮かべて雲雀さんが言う。大声出させてるのは、どっちですか。言いたいのを我慢して、取り敢えず手をどけて欲しいとんー!と叫びながら必死に手を押し返す。

「そんな必死に抵抗して…誰も襲おうなんて思ってないよ」
「んー!(それぐらい分かってますっていうかそんなこと考えてません!)」
「余り抵抗されると襲いたくなってくるんだけど」
「!」(ぴたっ)
「(急に大人しくなった…)手を離しても叫ばない?」
「(こくこく)」

私が頷くのを確認し、雲雀さんはゆっくりと手を離した。さっきまでずっと口を押さえられていたため、手が離れる瞬間はぁ、と吐息が漏れる。その時、一瞬雲雀さんが硬直。「…雲雀さん?」首を傾げて確認する私に雲雀さんは「君って人は………もう、いい」と一人で話を終わらせてしまうと布団の上から降りて背を向けてしまった。うん?まあどいてもらったわけだしいいやと考え直し私も同じく布団から降りた。そして今更ながらの疑問をぶつける。

「雲雀さん、何でうちに来たんですか?」
「…君が朝起きれないから起こしに来た以外に何かある?」
「そ、そうですそうでしたすみません!え、えっとー…あの、どうやってうちに入って来たんですか?」
「窓から」
「え、ここ2階…というより窓ちゃんと閉めて……あ、ああぁ!!」

窓からという答えが妙にひっかかって窓を見てみると…割れている、窓。よく見るとそこらへんに硝子の破片らしきものがたくさん散らばっている。…まさか、私の家に侵入するためにわざわざ窓ガラスまで破ったんだろうか、この人。改めて風紀委員というよりも雲雀さんの普通じゃなさを思い知って自然と溜息が出た。なんだかもう、何も言う気になれない。

「どうしたの?」
「いえ、もういいです…」
「心配しなくても大丈夫だよ。窓の修理代はちゃんと風紀委員の活動費から払ってあげるから」
「(横流し!?)」

風紀委員が大量の活動費をもらっているという話は聞いていたけれど…こんなことのために使ってたの?窓の修理代を払ってもらえるのは有り難いけれど、風紀委員の裏の事情を知ってしまって気分は複雑だ。窓を割るよりももっと効率いい方法考えなかったのかな。…携帯で起こすとか。そうだよ携帯があった!と私も思いつき充電器から携帯を外して開いたところで、絶句。………不在着信、じゅうはち、回?十八、18、じゅうはち…どれでいっても結局は同じ、10プラス8という数字だ。まさかねと半信半疑で着信履歴を見てまたもや絶句。…全部、雲雀さんからだ。私を起こすために何度も何度も電話をかけてくれたんだけど18回になったところで堪忍袋の緒が切れて窓を割った、ってわけか。…さっきまでは絶対に悪いのは雲雀さんの方だったはずなのに、こうなっちゃうと私の方が悪いみたいだ。いや、実際そうなのかもしれない。雲雀さんはわざわざ起こしにきてくれたわけだし。

「あの…今更ですけどありがとうございます。その…起こしにきてもらって」
「ほんと今更だね。そうだよ、一体僕がどれだけ君に電話をかけたと思ってるの?」
「(眉がちょっとつりあがったー!)ほほほほほんとにすみませんこのお詫びはいつか必ず…っ!」
「いつかなんて言わずに今返してくれて結構だよ」
「え?」

とん。実際そんな音がするはずないのにそんな音が聞こえた気がした。雲雀さんに身体を押され、私はまたまたベッドに倒れる。さっきと違うのは…言葉通り、押し倒された点だろうか。右には雲雀さんの左腕、左には雲雀さんの右腕、前には雲雀さんの顔で逃げ場がない。「…ひ、ばりさん……?」恐る恐る声をかける私とは打ってかわって、雲雀さんは少し、嬉しそうだ。「お詫びをいつか必ずって、、自分で言ったよね?」「…はい」「それはつまり、僕の言うことは何でも聞くってことだ」「!?(そういうことになっちゃうの!?)」私が言った言葉を随分と脚色してるような気がするんですけども…?雲雀さんの手が私の頬に添えられる。ぎゃーす!え、ちょっと今から本当に何するつもりですかもしかして私中1にして大人の階段のぼっちゃう!?私はもうシンデレラ!?一人焦る私に雲雀さんの冷静な一言。

「じゃあ。僕のバイクの後ろに乗って一緒に学校に行こうか」

色んなことを考えてしまっていた私をこの変態めと思いっきり貶したい。…驚かせないでください雲雀さん!