もしわたしが哀しいと感じたら、もしわたしが苦しいと感じたら、もしわたしが寂しいと感じたら、もしわたしが恋しいと感じたら。あなたは、きて、くれますか?





どうしようもなく胸が張り裂けそうで、授業が終わると同時に応接室へ向かい、そのまま扉を開け倒れ込むようにソファーに身体を投げた。いつも、雲雀さんが、座ってる、ソファー。そう考えると幾分か気持ちが楽になり、息もうまく吸えるような気がする。やっぱりこの世界はわたしにとっては窮屈で、少し、息苦しい。理由もなく時に物凄く苦しくなり、そういう時は決まってここに来る。何が駄目なのかは分からない。ただ、友達と笑ってたり、先生の話を真面目に聞いていたり、勉強したり、親のいうこと聞いたり、見知らぬ人とすれ違いながら行き来したり。そんな生活を過ごしていたら、時々うまく息が吸えなくなるんだ。哀しくなんてないのに、涙が出そうになる。毎日笑って生きられる人が羨ましい。わたしは…わたしには、無理だ。生きることはすごく難しい。息を吸うことは、とても難しいよ。

「…また来たの、
「…………雲雀、さん」
「…はあ。ほら、大きく息を吸って」

わざとらしく一回溜息をついた後、雲雀さんはわたしの背を優しく摩りながら誘導してくれる。雲雀さんの言う通りゆっくりと、大きく息を吸う。それでもまだ苦しくて、瞳が涙で滲んだ。「ひばり、さ」「黙って。落ち着くことに集中するんだ」雲雀さんの大きな腕がわたしの身体を包み込む。雲雀さんの胸はすごく温かくて、自然と息がうまく吸えるようになったことが分かった。清々しい空気が肺に通る。目元に溜まった涙を雲雀さんは拭き取って、そのまま舐めた。「しょっぱいね」「…そりゃあ、涙、ですから」もう苦しくなんてないし離れなくちゃいけないんだろうけれど、どうしても離れたくなくて、ぎゅっと雲雀さんの胸に縋り付く。我侭やっても、雲雀さんは、優しく頭を撫でてくれるから。

「君は本当に甘えん坊だね」
「…違い、ます」
「違うの?」
「これは、雲雀さんだから、です」

雲雀さんにしか、こんな、抱きついたり、しません。やっと息を吸えるようになった口で、途切れ途切れに伝える。じゃあ、安心だ。雲雀さんはそう言って笑うと、わたしの額に口付けた。ああ、ああ、雲雀さん。雲雀さん、雲雀さん、雲雀さん。何度言ったって言い足りません、何度言ったって言い足りないんです。雲雀さんが好きで好きで好きすぎて、わたしはどうしたらいいのか分からないです。こんなにも想うだけで苦しくなる気持ちを、どうやって伝えたらいいんですか?

「…雲雀、さん。わたしは、本当に本当に、苦しいです」
「うん」
「この世界はすごく窮屈で、息も上手く吸えないし、生き方すら分からない。わたしは、そんなやつです」
「うん」
「でも雲雀さんは、わたしに息の吸い方を教えてくれました」
「…うん」
「そのおかげでわたしは生きられます。雲雀さんにはものすごく感謝してます。でも、でも、やっぱり、苦しいです」
「…うん」
「雲雀さん、聞いてください。わたし、雲雀さんのことを想う度本当に苦しいんです。苦しくて、息が吸えなくなる。雲雀さんにしか助けてもらえないのに、その雲雀さんを思い出すと苦しくなる」
「…うん」
「雲雀さんが抱き締めてくれたり、キスしてくれたり、そういうことする度に胸がぐっと締め付けられて、息苦しくなる。雲雀さんが抱き締めてくれた時は、息苦しい気持ちと落ち着く気持ちがぶつかり合って、わたし、わたし…どうかなっちゃいそうです」
「…ねえ。つまり君は、何を言いたいの?」
「雲雀さん。わたし…雲雀さんのことが好きで好きで好きすぎて、どうすればいいのか分かりません」
「…うん」

「そう言うのを、待ってたんだよ」

言葉と共に降りてくるキス。口を塞がれて苦しいはずなのに…何故だろう。全然、苦しくなんかなかった。寧ろ…ああ、もっとキスして欲しいと思うなんて。欲求不満なんだろうか、わたし。次々と降りてくるキスを受けるうち、どっちからしているのか分からなくなった。ずっと塞がって苦しいはずが、その苦しさが逆に心地よい。素敵、だ。雲雀さんのキスは、ものすごく。

「嬉しそうだね、
「はい。……息の吸い方を、知りましたから」
「ん?」
「雲雀さんがキスしてくれたら、大丈夫です」
「ワオ。……じゃあ、いつもキスしてなきゃね」

もう辛くない苦しくない。窮屈なこの世界も、二人ならきっと生きていける。だから雲雀さん。ねえどうか、わたしが苦しい時は、       (くちづけを)








How to breathe