いつも通り風紀委員の仕事をするために終礼が終わると鞄を持って応接室へ向かった私。がちゃ、と開けつつ「雲雀さん…?」と中にいるであろう人の名前を呼んだら相手の返事はなかったものの、ソファーに座っている雲雀さんの姿を確認した。私が来てもいつものような「やあ」という挨拶はなく不審に思って近付いた途端、

抱 き 締 め ら れ ま し た 。

「(ぎゃー!)ひひひ、雲雀さん!?」
…」
「ね、眠いんですか眠いんですよね!?だったらあのほら、ソファに寝転がってください私なんぞ抱き枕には十年早いですからー!(十年後ならいいってわけじゃないけど!)」

あの!あの一匹狼でクールなあの!雲雀さんが自分から私を抱き締める…否、どちらかというと抱きついてきたことで私の頭は言い方が古いけれどもショート寸前。かといって無理矢理押し返そうとかそんなことは思わないのはあれです、惚れた弱みってやつです。どうしたの!?って思いよりも嬉しいとか思ってしまうのも…同じ原理です。

「あ、あの雲雀さんほんと眠いんだったら寝て下さって構わないので…」
「…眠いんじゃ、ない」
「そ、そうですか…」

一番妥当だと考えていた眠いという理由は違っていたらしい。ちゃんと否定してくるぐらいだからもう大丈夫かな?と思っても一向に雲雀さんは離れる気配がない。ぎゃー!寧ろ抱きついていた私の身体をぐいっと無理矢理引っ張るとソファに押し倒…された!?ええええ!とパニックになる私など構わず、雲雀さんは上から覆い被さり抱き締めて来る。顔は横、身体は密着の超接近戦だ。ぜ、絶対心臓の音雲雀さんに伝わってるんだろうな…。

「ひ、雲雀さんこの状態は色々まずいと思いますほら委員会の人なんかが来たら」
「委員長ー。この前潰しとけって言ったバレー部の奴らのことですが」
「(ほら早速来た!ていうかバレー部潰しとけとか雲雀さん言ったの!?)」

どうにかしてどいてもらおうと話していると本当に委員会の人がやってきてしまった。入ってきた人から見たら、押し倒されてる私。覆い被さっている雲雀さん。…誤解されるのは充分な状況だと思うんですよ!ちょうど顔が見える場所だったので「雲雀さんの様子がおかしいんです」と説明しようとしたのに、その人の反応は早かった。

「っし、失礼しました!!またあとで報告に来ますっ!!!」
「(え、か、帰っちゃうの!?)」

まだ私が口を開こうとした段階で彼は慌てて踵を返してしまう。…ふ、二人きり!絶対誤解したんだろうなあの人と出来るだけこの状況とは関係ないことを考える。(だって恥ずかしいから!)(でも正直結構関係ある話だったねこれ!)本当にどうしてしまったんだろう。そのまま暫く経った時、小さいけれど耳元で雲雀さんが何か呟くのが聞こえた。

「        」
「…?雲雀さ」
「君が、いなくなる夢を見たんだ」

聞き取れなくてもう一度尋ねようとする私の言葉を遮って、雲雀さんの声が聞こえる。…私が、いなくなる夢。予測すら出来なかったその台詞に少し戸惑う。そして気付く。雲雀さんの身体が、本当に、本当に少しだけど…震えていることに。

「僕の傍から離れないで…

どれだけ怖い夢を見たんだろう。ひょっとしたら、色んな人に裏切られて、最後にのばしたその手すらも私に振払われる夢だったのかもしれない。私が、雲雀さんなんか嫌いですと言って消えてしまう夢だったのかもしれない。そんなこと聞いても教えてもらえないだろうし、聞こうとも思えない。…これで、充分だ。雲雀さんが、私が消える夢を見てそれに恐怖を抱いている。…それで充分なんだ。

「大丈夫ですよ、雲雀さん」
「…

「………私だって、雲雀さんと離れるなんて耐えられません」





散像歌
(儚く消えそうなその歌に、確かな二人の絆を感じた)