「雲雀さん私聞きましたよ雲雀さんがどうしていつも1人孤独なのかってそれは話を遡ること1年程前、勉強なんかしなくても出来ると高をくくっていた雲雀さんがなんと理科のテストで6点などと人には言えない点数を取ってしまいテスト返却の時に逆ギレ、それは先生もクラスの皆すらも恐れるほどの暴れっぷりで話はすぐに全校に伝わり、それ以来雲雀さんは1人でずっと授業にも出ずに風紀委員とか言って不良達の頂点に君臨してるらしいですね納得です!」
「…は?」

確かにはおしゃべりだけど、会っていきなり挨拶もなしに早口で捲し立てるっていうのはどうなんだろうか。話の内容のくだらなさに呆れるよりもそれを一言で言いきってしまった彼女に感服した。

「でも大丈夫ですよ雲雀さん私がちゃんと今から校長先生に『雲雀さんが昔テストで6点を取ったのはテスト前に勉強なんかしなくても平気だと高をくくってたからなんです』って正直に言って謝ってきますから。これで雲雀さんも皆の仲間入りですね、では行ってきます!」
「ちょっと待つんだ」

またもや口を開いて一気に言い終わったかと思うと早速校長室へ向かおうとする。話の中に多々おかしいところ…というか、全く身に覚えの無いことばかりだったので、今すぐにでも走って行ってしまいそうな彼女の襟元をぐいっと引っ張る。そこまで強く引っ張ったつもりもなかったのに彼女の足下がおぼついていたのか、それとも知らず知らずに力がこもっていたのか、彼女は反動で引かれ僕の目の前でこけた。「ぎゃ!」…女の子らしくない悲鳴つきで。

「何するんですか雲雀さん!乱暴です!横暴です!淫暴です!」
「そんな言葉はない」

それじゃまるで僕がいつも淫らなことのために暴力してる奴みたいじゃないか。

「真面目に考えてくれないかな、
「私はいつも真面目です!」
「…君に言われるほどその言葉の真偽を疑うことはないよ」
「なー!?」

大袈裟に反応した彼女は「雲雀さんひどいです!」と大声で叫ぶ。周りの連中がひそひそと小声で離しながらこっちを見ているのが目について、聞こえるように大きく溜息をつくと未だしゃがんだままのに手を差し出した。「へ?」「行くよ」どこか人目につかないところに、というニュアンスを含めたつもりだったのだがはその手を掴んでいいのか分からずに手が彷徨っている。…本当に、手のかかる。仕方なくぐいっと彼女の腕を半ば無理矢理掴み立たせると、そのまま歩く。

「ひ、雲雀さん!?私今から校長室に行きたいのですが!」
「君みたいな子が校長に会えると思ってるの」
「許可証が必要ですか!?」
「………もういいから行くよ」

いちいち大声を出すからその度に周りがこっちを振り向く。周りから見たら僕は嫌がる女生徒を無理矢理引っ張っていく怖い先輩に見えるのかと思うと、どっちが被害者だか分からなくなって少し面白かった。先を歩き笑う僕が無気味だったのか、「雲雀さん…?」とが不審がるもんだから、「僕が笑うのは君が馬鹿だからだよ」と言ってやったら彼女がびっくりした表情をしてて、少しすっきりした。ひょっとしたら僕は自分が思うよりずっとずっと意地悪なのかもしれない。だけど「…私は馬鹿じゃないです」と口を尖らせて言う彼女は不覚にも可愛いなあと思ってしまった。…ほんと、不覚だ。

「君もそうやっていつも静かにしてればいいのにね。少しは可愛く見えるのに」
「…それは褒めてるんですか貶してるんですか」
「貶してる」
「こっこの人酷いですよおまわりさーん!!!」

またとりとめもなく彼女が叫ぶので僕は慌てて腕をぐっと引き身体を近付けるともう片方の手での口を塞いだ。周りに人はいないんだからこれぐらいやっても許されるはずだ。…多分。

「ふがっ……もがー!」
「もう叫ばないでよね」
「むがはもがは」
「…それは無理ですって聞こえたからこのままね」
「もがー!もががが、もががが!」

今度は嘘です、嘘です…か。口抑えてるくせに彼女の言うことがなんとなく分かってしまう自分がすごく嫌になった。何だ僕、変態?それともただ読心術の心得があるだけだろうか。自分で自分が分からない。ちら、とを見たら息が上手く吸えないんだろう。涙目で僕に訴えかけながら必死に手を外そうとしている様は…うわ、えろい。なんか物凄くえろい。そこらでミニスカはいて肌が強調されまくりな服を着てる連中よりもよっぽどえろい。しかも無自覚なのが更にえろい。それを見てちょっと愉悦に浸ってしまい、このまま続けていたら自分は人として駄目な奴になってしまうと確信して止めてあげた。…手がどいてやっと息を吸えた時の彼女もえろかったというのは、言わずもがな。

「天然はタチが悪い」
「はい?」
「いや、君は馬鹿だねって話」
「またですか!」

もう僕が何を言っても熟知の範囲らしく、ちょっと憤慨するだけ。うーん、僕としてはもうちょっと煩く騒いでくれた方が楽しいんだけど。なんだかほんと、こんなこと考えるなんて僕は人でなしだと思う。ただ君がちょっと僕の言葉で一喜一憂するのが楽しくて、僕はついつい苛めちゃうんだ。…それも前のことで、今となっては楽しんで苛めてるけども。

「大体君があんな馬鹿なことを言うからいけないんだよ」
「馬鹿なこと?」
「僕が何で一人なのか、っていうあの下らない理由」
「自分の過去を下らないとか言っちゃいけません!そりゃあ私もあの話を聞いた時は雲雀さんが9点という事実につい笑ってしまったのは否めないですけど、でも笑える過去だって素敵です!そんな過去があって今の雲雀さんがあるんですから!」
「咬み殺すよ」
「!す、すみません」

拳を握って力説はいいけれど、話してる内容が内容だけにどこか気が抜ける。しかも『つい笑ってしまった』という言葉が聞こえてもう一度腕引っ張ってこけさせようかなと考えてしまった。何が笑える過去だって素敵、だ。人の過去を捏造してしかもそれに笑うなんてほんと間抜けというか何と言うか…馬鹿、だよなあ。

「大体そんな嘘誰に聞いたの」
「嘘!?嘘なんですか!?」
「当たり前。僕がテストで6点なんか取るわけないよ」
「そ、そうですよね雲雀さん授業サボッてるくせに勉強は出来るし…」
「"くせに"?」
「の、のに!」

「そんな怒らなくてもいいじゃないですか…」流石に怒られまくることに嫌気がさしたのかしゅんとなる彼女。それを見てちょっと可愛いと思ってしまった僕は、そういう気はないつもりなんだけど、と心の中で思う。初めは僕が何かを言っても煩く騒ぐだけだったからたまに見せる落ち込んだ顔がこれでもかってくらい魅力的に映って惹かれていたけど、最近じゃそんなの関係なしに惹かれてる。僕が悪いのか、それともが悪いのか。原因はどっちだろうか。

「絶対にその人に何かしませんか。咬み殺すとか言いませんか」
「うん、言わないよ。で、誰なの?」
「ほ、本当に秘密ですよ!」

こいこいと手を振って僕の耳元に口を近付ける。彼女の吐息が耳に当たってちょっと僕の中で何かがうずいた自分に驚いた。ば、馬鹿じゃないのか僕。吐息ひとつに興奮してどうするんだ。「絶対言わないでくださいね」と最後にもう一度念を押して彼女が口を開く。

「山本くんです」
「咬み殺す」

一瞬で芽生えた殺意を胸に僕は1年の教室へと向かう。「わー!か、咬み殺すとか言わないって言ったじゃないですか雲雀さんの嘘吐き!」彼女は僕の腕にしがみついて必死に止めようとする。何で山本を庇うの、と言おうとしたけどそれじゃまるで僕がその山本に嫉妬してるみたいだから言わないでおいた。きっとそれが、正解なんだと思う。

「君もそんな奴の言うことなんか信じるなよ」
「うう…だ、だって」

狼狽する様子を見せた彼女は下を俯く。柄にも無い。普段はどんなことがあってもその強い瞳で僕を見つめているくせに。

「…雲雀さんが一人ぼっちの理由がそれなら、私にもなんとか出来るって思ったんです」

の言葉が僕の右耳から入って左耳から出て、もう一度左耳から入って頭の中を駆け巡る。…うん、うん?ここまで言葉を上手く理解出来ないのは初めてだ。だけどを見ての顔が真っ赤になっていることに気付いて、ああそうか、とやっと分かった。馬鹿、馬鹿な。君は僕のことを思ってくれてたんだね。僕が一人でいるぐらいなら他の人と一緒にいて欲しいと、そう思ったんだね。僕が群れるのが嫌いってことも知らずに、ただ真っ直ぐに、僕のために。

「…別にいいんだよ、一人で」
「へ?」
「僕は、君が傍にいてくれればそれで充分だ」

愛?いいや違う。恋?そんなはずがない。何だか分からないけど、言い表せない気持ちが僕を動かす。「君一人で、いいんだよ」今日一番、と言わず今までで一番の名台詞だな、これは。こんな風に本音、僕は君に伝えたことないはずだから。伏目がちだった彼女は僕の言葉に頬を赤く染めたままで、けれどこっちを向いて可愛く笑った。僕の言葉に煩く騒ぐ君やしゅんってなる君が好きだって僕言ったけど、笑ってる君が何より一番好きだって、思った。騒ぐ君、落ち込む君、笑う君。どの君も好きだ。これって結局、君を好きってこととどう違うんだろうね。







全てに勝ちうる一
(そんな君の位置)