『雲雀。わたしはこの世界がすごく恐いの』



世の中はたくさんの人達で溢れてる。そしてその世の中にたくさんいる人達は"いいひとたち"と"わるいひとたち"に別れるらしい。子供が小さい時親は言う、「あなたはいいこになるのよ」「こういうわるいひとたちになっちゃだめよ」。小さい子供というのはまだ自分の頭で何も考えられなくて、ただ親が言うことを全てと考える。だからそう、例えばその親が「ひとごろしはいいことなのよ。すばらしいことなの」と言えば子供だってその影響をきっと受ける。大体"いいひとたち"と"わるいひとたち"の基準。それが私には分からない。何が普通で何が普通じゃないの?何がよくて何がだめなの?話は変わるが、わたしが生きていて一番恐いと思うのは誰かが優しく接してきた時だ。何でそんなことをするの?そんな優しくするの?表面上は笑顔で、「別に気にしないで、」そう言って優しくしてくれる人達が…こわい。だっておかしい。だって変だ。自分の利益も何も考えずに人に優しくなんて、出来るはずがない。…少なくとも、私には出来ない。こうやったら自分は優しいと思われるとか、こうやったらあの子は私のことを信用してくれるだろうとか、そういう利益を考えてしか…動けない。こんなわたしみたいな奴で溢れてる世界…ああ、なんて恐いんだろう。それはまさしく恐怖そのものだ。

「君がいきなり何でそんなことを考えたか知らないけど…そういうことは理論家にでも聞いてくれないかな」
「そんなこと言わないでよ雲雀。わたしは真剣に考えているの」

わたしにとって雲雀は…そういう疑問に答えてくれる人の一人だ。いつも面倒くさいだのなんだの言いつつも、結局は雲雀なりの考えを話してくれる。だから、雲雀はすき。好き嫌いの基準は人によってそれぞれ違うだろうけれど、わたしの基準は"自分という存在を理解してくれるかどうか"だ。雲雀からもらった始めての言葉は、「君、何か文句があるなら誰にでもいいからぶちまけたら?」だった。今考えるとあの時のわたしをよく見抜いていたなあと感動すらしてしまう。そのぶちまける相手はもうすっかり雲雀になってしまっているのも、なかなかに面白い話だ。

「話が長くていくら僕でも始めの方は覚えてないよ」
「うそつき」
「…まあ、うそだけど」

よく分かったね。雲雀は口端をつり上げて嘲う。まさかわたしが信じるとでも思ったんだろうか。雲雀がわたしと同じく自分のことをどれだけ知っているかどうか、常に調べることは既に分かってる。それに、そう。…こういう話は、雲雀の"大好物"だから。専売特許、でもいうんだろうか。それとも得意分野、かな。とにかくこういう…世界についての話、雲雀は大好きだ。わたしも…だいすきだ。だって、雲雀が好きなものだから。

「結局人間が恐いって、そう言いたいんだろ?」
「…そんなこと一言も言ってない」
「要約すればそういうことだと僕は思うけど」

人間が恐い、か。…確かに、そうなのかもしれない。いくら笑顔だからって、いくら優しくしてくれるからって、心の奥の奥の奥では何を考えてるか分からない。ひょっとしたら「ああ、こんなやつしんじゃえばいいのに」と思っているかもしれないのに…恐怖心を抱かない方が無理という話だ。そんなことを考える自分に気付いて、他の人もそんなことを考えるのかと思うと憂鬱になって、やっぱり人間は恐いと再認識。…そんなロジカル。結局他人の心を全て知ることなんで出来ないんだろう、な。だから、恐い。

「うんそうだね…人間は、恐い。でも、雲雀は恐くないよ」
「それはまた…僕は人間じゃないとでも?」
「違う。そうじゃなくて…雲雀は本当に優しいから」
「………そんな簡単に信じるんだ。僕だって心の奥の奥の奥の奥では何を考えてるか分からないのに」
「分かるよ」

すぐに発せられたわたしの答えに雲雀は目を一瞬丸くする。…雲雀、わたしには分かるんだよ。他の人間のことなんて全然分からなくても、雲雀だけは違う。今雲雀が何を考えてるか、雲雀が何を求めているのか。全部、全部分かるよ。だから逆に私は世界が恐いんだ。雲雀とは違って、誰も心の内を見せてくれようとはしないから。

「自分でも言うのもなんだけど…僕を理解出来るなら大概の人間は理解出来ると思うよ」
「他の人は無理だよ、だって雲雀は特別だもの」
「特別?」
「…雲雀には、愛があるから」
「…ワオ」

少し遅れていつも通り雲雀は反応する。どことなくその顔が嬉しそうに見えるのは、ただ私の願望なんだろうか。「それなら他の人間も愛したら?」「愛することはとても難しいからだめ」思った通りのことを言えば唇を塞がれた。心地よい感覚に暫く浸る。

「どうせなら僕しか愛したくないって、そう言ってくれる?」
「そんなこと…あたりまえ、じゃない」

好きだよなんて単純な言葉はいらない。もっと確かな愛が欲しい。




愛あれば
(何にも恐くないよ)(だからもっと愛して、)