【正義とは何だ。悪とは何だ。この世界をその2つに分けることなど、出来るはずがないのに、】
|
雲雀恭弥は不思議な人だった。 「私は、待って、いない」 率直な意見。正論に、私は苦笑する。確かに、その通りだ。恋人だってきちんといるのだから、こうやって、一人暮らしの雲雀恭弥の元へ来るのはいけないということぐらい、私にだって分かる。だけど足は、止まらない。心の内の望むがままに、行きたい場所へと勝手に行ってしまう。恋人の元へ行く時は、自分が足を動かす。それは無理矢理動かしているということになるんじゃないかと思っていた時もあったけれど、今は、違う、と断定出来る。恋人の元へ向かうのは、苦ではない。ただ、雲雀恭弥の元へ向かうことは、楽でも苦でもなく、私が真に望んでいることなのだ。その、違い。言葉にすれば簡単だけれど、実際は、凄く、大きな違いだ。確かな差が、その二つの間には、ある。 「貴方って、ほんと、意地悪ね。貴方みたいな意地悪な人、初めてだわ」 これもまた、正論。もう隠すこともないと、ぼやく。「居心地がいいの、ここは」「…初めからそう言えばいいのに」彼はそう言って、手元にある本に目を戻す。多分今のは、此処にいてもいいという、彼なりの、合図だろう。そう勝手に解釈して、腰を落ち着ける。雲雀恭弥の読んでいる本の題名は、見覚えがあった。確か、子持ちの妻が愛人と密会し、ひたすら愛を育む物語だったと思う。読んだのが随分前なのではっきりとは覚えていないが、最後、妻は確か夫に愛人の存在がばれ、殺された。家庭内暴力も関わっている話で、果たして愛人と密会していた妻が悪なのか、乱暴に扱うくせにいざとなると嫉妬に狂う夫が悪なのか、また、全てを知りながら一歩離れて安全なところを歩いていた愛人が悪なのか。それが結局分からずに、私は悩んだ覚えがある。 「浮気、っていうのは、一体、どこからだと思う?」 なんとなく馬鹿にされたような気がして、彼に近付き詰め寄る。雲雀恭弥はなおも食い付いてくる私に呆れたのか、本を床に置くと、そのままぐいっと私の身体を乱暴に引き寄せた。唇に、いつもとは違う唇が当たる。すぐに離れて、何だこれだけかと思えば、また、キス。今度は長い。そして、深い。息が続かない、苦しい。 「これも浮気だって、君はそう言うのかい?」 「どうせ、もう浮気をしてるんだ。僕の暇つぶしに、付き合ってくれるよね」 どうしていつもこう、同じことの繰り返しなんだろうか。循環。巡り巡る、因果。いつかこのことが恋人にばれれば、私も、小説の愛人と密会していた妻のように、殺されるだろうか。1度死んでみないと馬鹿はなおらない、なんて下らない言葉があるけれど、私のおかしさは、真剣に、1度死んでみないと、なおらないだろうと思う。死んだら、なおるだろうか、本当に。死ぬのに恐れを感じないわけではないが…ああ。もし殺されるなら、恋人に殺されたい。そして、死ぬ時は、雲雀恭弥と共に死にたいと、そう思う。 |
正義の定義
(そんなもの知らなくていいのだ。知る必要もなければ、存在する必要も、ない)