(恋の始まりはどきどきからだと言いますよじゃあ心臓の音が聞こえるということは恋の始まりの音が聞こえるということなんでしょう)





ああ、蛇に睨まれたカエルの気分。いや、より正確さを求めるなら、狼を目の前にしたシマウマの気分?

「…お、お久しぶり、です、雲雀、さん」
「久しぶりだね、
「な、なんでここに…?」
がいるから」
「………」

笑顔と共に言われた一言。漫画やアニメならばどきんとときめく場面でも、生憎私はそういう風にはいかなかった。ぐるっと方向転換し後ろにいるツナの服を掴み、詰め寄る。

「な、ん、で!ここに雲雀さんがいるの!?聞いてないよツナ私そんなの!」
「お、俺も初めて知ったから…多分リボーンの所為だと…」
「何でリボーンちゃんがこんなことするの!?こんなことして何か得する!?」
「うーん……まあ、それなりに(この前アイツと雲雀さんがくっつけば雲雀さんは確実にファミリーに入るなとか呟いてたもんなあ…)」

「ははははい何でしょう雲雀さん!」

人生生まれて初めての経験、小さ声で叫ぶという偉業をやってのけた私はツナに涙目で訴える。ツナは今ここにはいないリボーンちゃんを想像しつつ、苦笑い。くそうそんなのあんまりだ!と嘆いていたらいきなり雲雀さんに声をかけられた。かなり驚いたけれど出来るだけ平静を装って(…装えてるんだろうか本当に)雲雀さんへ身体を向ける。

「何で僕がここに来たか分かってるよね?例の件だよ、ほら、風紀委員お手伝いの件」
「えーと…でもあれはこの前丁重にお断りしたと思うんですが、!」
「そうだっけ。…何で?」
「え、何でって…え?」
「理由も述べずに断るのは人としてどうかと思うよ。断るなら断るで正当な理由を話してくれないかな」
「…………(理由ないよ…)」

考えても考えても最もらしい言い訳…雲雀さんが納得してくれそうな理由は思い付かなくて、ツナに助けを求め後ろを振り向く。ところがどうしたことだろう。唯一の私の救いのはずのツナは私がぎっと睨むとさっと目をそらした。…ツナのばか!大体こうなってしまったのはもともとツナの所為なんだからね!






そう、雲雀さんとの出会いはついこの前。皆で花見に行った時に自分の都合で勝手に取り仕切り、そしてツナや皆に攻撃する男の人に頭がきて思いっきり力を込めて平手打ちをしてしまったのだ。ぱしーん!と良い音が響いて皆が一斉にしーんとなる。呆然としているその人に向かって、私は怒鳴った。

「我慢することも出来ないの!?ツナを、皆をこれ以上傷つけないで!」

その時は桜クラ病という病気に彼がなってしまって私も特にやり返しされたりもせずに無事終わったんだけれど、本当に大変なのはその後だった。彼が先生すらも恐れる風紀委員長だと知り、なんとなく嫌な予感がして次の日学校に行くと気付けば男子学生に拉致され応接室へと強制連行。「待ってたよ」と笑顔で迎えてくれるその人はまごうことなき昨日の人。これはまずいと汗を流した私も流石に次の台詞を聞いた時には固まってしまった。

「君が好きだ。だから僕の傍で、風紀委員のお手伝いをやって欲しい」

雲雀さんからそう言われた時の私がどれだけ驚いたかと言ったら、驚き過ぎて自分が驚いたことにも気付かなかったぐらいだ。今までこんなに驚いたことがあっただろうか、と考えてしま程だった。私と雲雀さんのファーストコンタクトは私が雲雀さんに平手打ちしたのだからこの人Sに見えて実はMか?とか下らないことも考えたけど、とにかく、それ以来雲雀さんは私の傍に…否、私を付け回している。休み時間の度に教室に来たりたまに授業中も呼びに来たり帰ろうとすればついて来たりするのがストーカーならば雲雀さんはまさしくそれだ。だからこそ私が友達のツナの家に遊びに来、ツナの部屋の扉を開けた瞬間こっちを向いている雲雀さんを見つけ、それら全てがツナの所為だと言いたくなるも仕方ないことだろう。






「ねえ、そこの君」
「え、ぼ、僕ですか!?」
「そうだよ。…ちょっと、と2人にしてくれないかな」
「はいっ!?」

続いていた沈黙を破ったのは雲雀さんだった。ちら、とツナへと視線を移し声をかけたかと思うととんでもないことを言い出した。ひ、人様の家でその仮にも住んでる人本人を追い出そうとするなんて…。いやいやその前に2人にしてっておかしいでしょう勘弁して!

「ツナ!(行っちゃだめ行っちゃだめ行っちゃだめ)」
「……え、えーと…」
「ツナ!(行っちゃだめ行っちゃだめ行っちゃだめ)」
「………………ごめん!」(との友情<雲雀さんへの恐怖)
「ツナ!?」

必死に目で訴えかける私の気持ちなど知らず、ばっと振り返ってツナは一気に階段を降りてしまう。そのままがちゃっばたんと玄関のドアの開閉音まで聞こえてきた。…ツナのお母さんはお出かけ中だから、これって実質的に雲雀さんと完全に2人きり?確かに今まで雲雀さんが来る度隠れたり逃げたりを繰り返してたけど…こんな形で自分に返ってくるとは思わなかったな…。今から急いで逃げるという手をあると言えばあるんだろうが…どうせそんなことしたってまた雲雀さんは付け回してくるんだろうし、ならば仕方ない、諦めよう。ツナの部屋へ足を踏み入れすぐそこに座る。

「2人きりになるのはとても久しぶりだね」
「…そうですね」
「君がいつも逃げたり隠れたりするからね」
「(ば、ばれてる…)そ、そうですね…」
「僕のことがあんまり好きじゃないみたいだね」
「…そうですね」

2人というシチュエーションと奇妙な静けさが耐えられなくて、適当に返事を返していくうちにうん?と首を傾げた。あれ、なんか今、私、変なこと言った?急に雲雀さんが静かになり、自分の適当な返事が雲雀さんを怒らせてしまったのかと心配になる。…というよりも今、好きじゃないみたいだねと聞かれて、私、ひょっとしてどうですねとか言っちゃった?…言っちゃった、気がしてきた。雲雀さんは立ち上がり、私の前へとやってくる。雲雀さんの手が頬に添えられた時はびっくりしたけれど、目が合った雲雀さんが、すごく、哀しそうで。(この人、こんな哀しそうな顔もするのか)

「ねえ。…どうやったら、君の中に僕が居座ることが出来る?」

今の今までただの静かだった雰囲気が、急にどきどきする状況へと変化する。だって、何で、そんな哀しそうな顔するんだ。私がただ、好きじゃないかと聞かれて、否定しなかっただけで。ばかじゃないか、そんなの。単純すぎじゃないか、そんなの。好きな人に好かれていないから哀しい?そんなの…そんなの、当たり前の、ことだ。だけど私は知らなかった。雲雀さんが、当たり前ってこと。当たり前のように、人と同じく哀しむこと。

胸がどきどきする。心臓の音が聞こえるよ。だから言ったのに。ああもう全部何もかもツナの所為だからね!




をすませ!

(聞こえるよ近付いてくる音!)