「…私、雨って嫌いです






そう、ぽつりと。まるで、今現在降っている雨粒のようにぽつりと呟いた少女の独り言が、少年に届いたかは分からない。それに届いていようが届いていなかろうが、そんなことはどうだっていいのだ。どちらにしろ、少女がそう呟いたこととその後少年が「そう」と頷いたこと、そして2人の間に沈黙が訪れたという事実は変わらない。聞いているのと聴いているのが違うように、返事をしたからといって、少女の呟きが少年に届いたと決めつけるのは、少し、早すぎるだろう。ただ、「それはまた、何で」とこれまたぽつりと呟いた少年の言葉によって、ああ、ちゃんと届いていたんだなあとやっと分かることが出来た。それでも少女はそんな思いなど表面には露程も出さず、淡々と、話を続ける。ぽつりぽつり、と。

「平等に地上に降り注ぐ雨は、なんだか、私の全てを奪い去っていくような気がします」
「…。君は、"恵みの雨"という言葉を知らないの?」
「知ってます。分かってます。…でも、そうじゃないんです」

決してその雨は弱いものではないけれど、少女は傘をさそうとはしなかった。なんとなく、濡れたがっているようにも見える。少年の方も傘を差す気などなかっただろうが、少女がいつまでたっても差さないのを見て、自分の傘を差し少女を引き寄せると一つの傘に入った。ぎゅう、と少年は少女を抱き締める。先ほど言った言葉とは裏腹に、少女が雨に奪われるかもしれないという恐れからの行動の気もした。少女はそんな少年の行動に反応を示すでもなく、やはり空から落ちてくる雨粒をじっと見つめるだけだった。

「『木を隠すなら森の中』『臭いものにはふたをせよ』という言葉を知っていますか?」
「知っているけれど」
「どちらもニュアンスは若干違いますが、結局は『汚いものを隠すには汚いもので』ということです」
「そう…だね。そうかもしれない」

少女の質問の意図を掴むことは、この場合とても難しかった。言い方が遠回りすぎて、少年には理解が出来ない。それに苛ついたのかなんなのか、少年は無理矢理少女を掴むと、荒い口付けを送った。長く、深く、そうして荒く。愛が溢れた結果とは言い難いその口付けは暫くしてどちらからともなく離れる。しかし離れた瞬間また口付け。気付けば少年が少女のために差していた傘は地面に落ち、二人はただひたすら口付けを交わし合った。地面に落ちた傘も、少女も少年も、雨に打たれる。

口付けはいつまでたっても止まなかった。けれどこの世に永遠というものがあるはずもなく、何十回と数えられるのど交わした後、ようやく止んだ。お互い息は荒いのに表情は変わらず、少し、それが可笑しかった。口付けが止んだ途端、少女はゆっくりと話し出す。

「その理屈から言うと、汚い物を流す雨というものは、更に汚いものを目立たせる恐ろしいものだと考えることは出来ませんか?」
「それが、君が雨を恐れている理由?」
「そうです。隠しても隠してもそれを剥ぐ…噫、何て恐ろしい」

「やっぱり私は、雨というものが嫌いです」

少女の話が終わると、少年はまた激しい口付けを少女に送る。少女もまた、それを受け入れる。きっと少年の想いは、先ほどのようにキスだけでは収まらないだろう。少年は少女を愛す。少女も少年を愛す。こうしてまた、雨によって覆い隠していたものを洗い流された汚いものが、ここに生まれる。地面に落ちた傘はいつまでも雨に打たれ続ける。二人は愛し続ける。雨は、止まない。






青色サンクチュアリ